*カスミソウ ページ21
当主になるための血の滲むような努力をしていた時間も今や必要ない。鬱から紹介された図書館に通っては今後のβ国について考える。どうすればあの国がよりよい方向に行くのか等彼女の思考はそれで埋め尽くされていた。
図書館の窓際の席につき、政治についてや他国の歴史書を読み漁る。コツンと窓に何かが当たって顔を上げれば、緑色のパーカーがブンブン手を振っている姿があった。口をパクパク動かしているが、窓越しのAには何を言っているのか分からない。
Aは渋々、本に栞を挟むと窓を開けた。
「チッス!チッス!」
「…ゾムさん?」
「随分と難しい顔しとったな!そんな本たくさん持ってどないしたん?」
「何って勉強よ、勉強」
「こんなに天気がええのに勉強…!?」
ゾムにそう言われてAは初めて外が雲ひとつない快晴であることに気づいた。窓の外からは心地いい風が吹いて、春の花の匂いもする。
「朝は寒かったから気付かなかったけれど…もう春なのね」
「どんだけ自分引きこもっとったん?」
ケラケラとゾムにバカにされたAは顔をムッとさせると窓を閉めようとする。慌ててゾムが窓枠に手を入れてそれを止めた。
「すまんすまん。自分、意外に怒りっぽいんやね。」
「当たり前よ。馬鹿にされたら誰だって腹は立つもの」
「そんなもん?」
「そんなものよ」
子供を相手にしてるみたいにどっと疲れる。はぁ、と溜息を零せば目の前にいたゾムは右手をぐー、左手をパーにして左手の上に右手を置いた。俗に言うひらめいたポーズだ。
「どうかしたの…?」
「大先生の妹もこんなとこに引きこもっとったら気が滅入るやろ?せやから、俺と一緒に出かけようや!」
「出かけるって街にでも行くの?」
「ついて来てからのお楽しみや!あんたは乗馬できるか?」
「ま、まぁ…出来るけれど」
「なら決まりやな!」
「きゃっ」
窓枠に足をかけたゾムはAの脇に手を入れて持ち上げる。そしてそのまま外へと誘う。突然の浮遊感にさすがのAも悲鳴をあげる。文句でも言ってやろうと抱えられたままゾムの顔を見れば、楽しそうに笑っているので怒る気も失せてしまった。
「ちょっとここで待っとってな!すぐ戻る!」
Aを地面に下ろしたゾムは走ってどこかへ行ってしまう。どうせ待たせるなら無理に図書館から出す必要はなかったのでは?と疑問に思う。しかし足元に咲くたんぽぽを見て、忙しない日常では気づかなかった発見にクスリと笑いをこぼした。
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鳩山(プロフ) - ろわ。さん» コメントありがとうございます…!拙い文章でしたが楽しんでもらえたなら幸いです。嬉しいお言葉本当にありがとうございます…! (2019年11月27日 21時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ろわ。(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後の結婚式のシーンでは私までut先生みたいになりました...。とても素敵な作品をありがとうございました。 (2019年11月22日 2時) (レス) id: a9da82584b (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ロアさん» ロアさん!コメントありがとうございます!労いのお言葉まで…!最後まで読んでくださって本当にありがとうございました! (2019年11月21日 13時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ロア(プロフ) - 完結おめでとうございます!!( ;∀;)お疲れさまでした (2019年11月21日 8時) (レス) id: 148e7f1d83 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ウルさん» コメントありがとうございます!とても嬉しいお言葉、そして完結まで読んでいただき本当にありがとうございました! (2019年11月21日 6時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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