検索窓
今日:136 hit、昨日:221 hit、合計:1,175,086 hit

シトリンの落とし物 ページ35

浮雲ひとつない空に暖かい春陽が浮かんでAを照らす。シトリンはそんな春陽に当てられてさらに輝きを増したようにみえた。「髪、ほんま綺麗やなー」と掬っていくのでAは何だか照れ臭くなって距離を保つ。シトリンは彼女のそんな行動にも気を悪くした様子はなく笑っていた。

「お、意外にウブなんやな」
「あなたの距離が近いのですわ!」

 顔を林檎のようにしてAが口を尖らせる。相変わらず機嫌良さそうに笑みを浮かべている男に怒る気もなくなり、そんな彼に気になっていたことを問う。

「何故、上級生に追いかけられていたのですか」
「そんなん理由は決まっとるやん。向こうがショボいこと言うてきたから、ちょっとばかし煽っただけ」
「まぁ、煽るだなんて…。それで危険な目に遭ってたのですね…。無事で何よりと言うべきか、自業自得と言うべきか迷いどころですわ」
「ちくちく刺さるわー」

 ヘラヘラと笑って流そうとするシトリンの腕をAは掴む。

「本当は気付きたくなかったのですが、あなた怪我をされているでしょう」
「……してへんよ」

 そのまま彼女が掴んだ手首をゆっくりと回していくと、余裕の笑みを浮かべていた彼の顔が初めて歪んだ。

「ほら。見てみてください。こんなに真っ赤に腫らして…。わたくしを抱えて走るだなんて無謀ですわ。今すぐ手当てしに行きますわよ」

 熱を持つその手をAのひんやりとして手で優しく包む。しかしシトリンは顔を歪にしたままその手を振り払った。

「ぜーったいにいやや!」
「悪化してはいけませんから」
「嫌って言ったらいや!俺のことはほっといてや」
「ほっとくも何も、氷を貰うだけのことではありませんか。」
「ええから。絶対に俺は行かんからな!」

 癇癪を起こす子供のように彼は嫌がってAは呆れて物が言えなくなる。一瞬でも見惚れてしまった自分がバカらしい。シトリンは何も言わずにズカズカと彼女に背を向けて歩き出していた。

───いくら見た目が美しくても、中身が伴っていないとあり得ませんわね。

 すっかりとシトリンへの好感度が下がったところで男が何かを落としていたのに気がつく。

「……シャオロン・ウォン・リオルディ……?」

 彼の顔写真の入った生徒手帳。声をかけようと思った時にはすでに彼の姿はどこかへ消えていた。

騎士の誇りを懸けた戦い→←平和は一時的なもの



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (923 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2077人がお気に入り
設定タグ:wrwrd! , d! , 軍パロ   
作品ジャンル:ラブコメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:鳩山 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年5月31日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。