立ち向かうことだけが勇姿ではない ページ24
完全寮生のこの学園にも休暇は存在する。入学して一月ほど経った頃、新入生には五日間の休みが与えられた。Aももちろんそれに該当する一人であり、さっそくストラスブールへと帰国するのであった。
.
「では行きますよ、エーミール」
ストラスブールの皇女として、煌びやかなドレス…ではなくAは質素なシャツとズボンを着込んでいた。その上からはどこで見つけて来たのかボロボロのローブを羽織っている。
「あのですね…!さすがに護衛もなく貧困街へ行くことは危険過ぎます!」
「護衛を頼むならばお父様の耳に入ってしまうでしょ?止められるに決まってますもの。それじゃあ、わたくしの目的は達成できません」
Aの目に、一冊の本が目に止まる。
───ストラスブールが崩壊する一つ目の理由。それは、貧困街に住む住民達の反乱。
それを指揮していたのがトントンやグルッペンであっただけ。しかし本には二人の好感度を上げたって変わらぬ事実が書かれていた。それは王族や貴族に散々重税を支払わせられていた国民の怒り。
特に昔から貧困街に住む国民と、城下町に住む貴族達の溝は深いものがあったのだ。
Aはあたふたと自分を引き留めようとするエーミールに対して口元に人差し指を立てる。
「エーミール。賢いあなたなら知っているでしょう」
「…っ……なにを、ですか」
「最近、貧困街の住民が次々と倒れているそうですわね」
慌てふためていた彼の目の色が変わる。
「あなた様は、どこまで…」
「その原因を突き止めますわ。無理はしません。わたくしだって命が大事ですもの」
にひり、と口を緩めたブルーサファイアに彼は押し黙る。
「せめて…護衛は一人でも…」
「いいえ。わたくしが本当に信頼の出来る者だけしか連れては行けません。喜びなさい、エーミール。あなたは合格ですから」
「あの…でも、私はあまり戦闘は得意ではないのですが…」
「ふふ。危ないことがあったら立ち向かうことだけが解決ではないですわ。速攻逃げればいいのです…!」
胸を軽く叩いて、えへんと威張るように笑う。エーミールはそんな主人を目の前に深い溜息をついた。縋るように彼女を見ても、覚悟を決めたAの気持ちが揺らぐはずがなかったのだ。
こうして、A・ラ・ストラスブールとその従者エーミールは王宮から抜け出した。
2077人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ