【d!】断頭台で首を斬られたのでもう一度人生やり直します

価値観に囚われてはいけません ページ18

オニキスが瞬く。しかし、それは眼鏡によってよく見えない。Aは美しいものが好きだ。だからそっとまだ湿る手で彼の掛けていた眼鏡を外した。

「その眼鏡も、マスクも、長い前髪も、邪魔ですわね。美しいものをわざと隠してしまうなんて勿体ないですわ」
「………それって本心？」
「えぇ。もちろん」

　Aが彼を見て笑うと、目の前に立っていた青年は罰の悪そうに視線を逸らす。

「はぁ…。君ってさ変わってるね」

　今度はAが瞬く番であった。

「白人至上主義のこの学園で、初めてだよ。そんなこと言われたの」

　彼はゆっくりと話を始める。Aは聞いてやる義理なんてなかったが、彼の耳障りのよい声と力の宿る瞳が彼女をここに立たせていた。

「白人の中でもブルーサファイアの瞳は最も崇高とされているだろ。でもそんな中で君は、」

　一度言葉を途切れさせて、彼は俯く。

「この学園に通う奴らはさ、みんな自分が一番だと思って疑わない。自分の価値観ですべての物事を測るんだ。なのに君は……君にとっての常識なんて覆して"美しい"なんて言うから」
「わたくしにとっての常識を何故あなたが決め付けるのですか？」

　Aのブルーサファイアがじっと彼を見る。その視線の強さについにオニキスは笑った。

「はは、ごめん…。……価値観に捉えられていたのは俺の方だったみたいだ」
「そうですわ。他者がどのように考えているなんてどうでもよくてよ。一番大事なことは己に従うことですわ」
「……敵わないなぁ。」

　彼の掛けた水が太陽の光を浴びて、二人の間に虹がかかる。二人ははそんな神聖な虹を見て微笑み合った。

「ねぇ、名前教えてよ」
「…Aですわ。A・ラ…」
「ストップ。姓はいらないよ。Aか。いい名前だ。この詫びはいつか」
「美しいオニキスを見せてくれたのですもの。詫びなんて必要ありません」
「男としてそれは受け入れられないな。まあ、気長に待ってて」

　オニキスがAからタオルを奪って、そしてまだ濡れる顔を優しい手付きで拭いていく。

「A。君が良ければなんだけど、週末の歓迎パーティーで、俺のパートナーになってくれないか」
「え、……わたくしと？」
「うん。俺は君に釣り合うような人物になりたい。その時に君の姓を教えてよ。」
「…それは、また素敵な約束ですわね」

　オニキスは笑みを深めた。週末、ここで会おうと耳元で囁いた彼に、単純なAは笑って応えた。

一際目立つのは力の宿るオニキス→←美しいと称賛すること

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