呪いの書の処分はお早めに ページ3
バサリ、と落ちたのは厚みのある日記帳のようなものであった。手に取ればその表紙に、"ストラスブールの悲劇"と記されている。なんだか非常に見覚えのある本をすぐに開く。並ぶ名前はどれもこれもAの知る者達ばかりだ。
「……xx年、ストラスブール王国第一皇女…A・ラ・ストラスブールが処刑……」
表紙の次のページの年表には太い文字でそう記されていた。きっと目次にあるストラスブール王家の処刑のページをめくれば詳しく書かれてあるに違いない。
「やはり、あれは…夢ではなかった…のね」
小さな呟きは、クビ騒動で慌ただしく嘆くエーミールには聞こえない。
───何がどうであれ、神がくれた最後のチャンス。わたくしはもう、あの時のように死なないわ。
自分の処刑される様が描かれているというのにAは非常に前向きであった。呪われた本を片手にAは立ち上がり、手入れの行き届いた美しいブランドを靡かせ、未だに頭を抱えるエーミールを見やる。
「エーミール!今から聞くことに嘘はなしで答えてくださいね」
「ひっ、クビはやめてください…!」
「まあ失敬ね。違いますわ。そんなことよりわたくしは今年でいくつになりますの?」
「は、はい?」
「いいから答えて」
「えぇ…まぁ、はい。A様は今年で16ですが…。もう生誕祭でもなさるつもりですか?」
モノクルを掛け直したエーミールがまたAの我儘が始まったと言わんばかりに苦笑いを浮かべる。Aは仁王立ちをしたまま、内心ほくそ笑む。処刑されるまで残り六年。期間としてはちょうどいい。
それに、今日から始まるのは学園生活。あの地獄のような日々をやり直せるのなら願ってもないものだ。
高飛車な性格が災いし、取り巻きは多かれど、対等な友人と呼べる人物はほぼゼロに近かった学生時代。皆が青い春と甘酸っぱい恋愛をしている中、自分には来ることのなかった春。
「へへへ…今度こそ…立派な…殿方を捕まえて見せますわ…」
「A様…、その笑い方はここ以外ではやめてくださいね」
哀れみの瞳で見つめる執事。
Aはもう一番大事な目的を忘れてしまっている。彼女が行うべきものは、自身の処刑の回避だということを。
そして、彼女の処刑される決め手となったあのストラスブール革命。頭の小さいAにはもう残っていない。あの革命に関わる重要な人物が、自身の同級生であったことを。
Aがそのことを思い出し頭を抱えることになるのはまだ先の物語──。
感謝の気持ちを忘るべからず→←首が繋がっていることがどれだけ幸せか
2073人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
枕の怨念ぅ - 凄く親近感の湧く小説でした!面白いです! (11月18日 16時) (レス) @page5 id: 7f1a8024d0 (このIDを非表示/違反報告)
くれぴと - 夢主様考えることが言い方悪いけど欲望に忠実すぎて逆に幼子みたいで少し可愛らしいと感じる自分がいる...これうちだけかな? (5月7日 20時) (レス) id: e2b452ca9a (このIDを非表示/違反報告)
春風駘蕩(プロフ) - コーネコネコーネは笑う⋯めっちゃニヤついてしまった⋯ (2022年9月17日 23時) (レス) @page14 id: 34351208ff (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - knさん…名前めっちゃコネるやん…不覚にもねるねるねーるねを思い出してしまった…。すみません…。 (2020年12月11日 5時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - こすずめさん» コメントありがとうございます…!一応チラッとだけ概要に書いているのですが、バチコリと読んでおります!元ネタは某なろう系のものです!お褒めの言葉並びに応援のお言葉をありがとうございました…!本当に励みになっております! (2020年9月14日 2時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ