三十五本目 ページ39
「……なるほど。姫そのものが囮やったってことか」
鬱は腕に刺さる矢を引き抜き止血を行う。
そして、後ろを振り返った。
「「その身正しければ、
令せずして行わる。
その身正しからざれば、
令すといえども従わず。」」
鬱の呟きは、その場にいた男…トントンの言葉と重なる。
「まさか、こうなるとはなぁ。嫌われ者のお姫様はあの子やったのに」
「でも、あの姫さんはいつだって真っ直ぐやったで。弱くて認められくんても、部下を切り捨てるようなことはせんかった」
「………」
「土妃の影に隠れて手を汚さず、ある程度の地位を得てから殺すような外道やなかったってことや」
トントンは土軍兵士を斬り捨て、最後に残った大将に剣を向ける。
「Aからの慈悲や。命は取るな、と」
「ははっ、お前じゃ俺を取れへんよ」
鬱は腰から肩を引き抜き、トントンとの距離を縮める。トントンは彼の重たい一撃を受け止めるとそのまま剣先でいなして斬り捨てようとする。しかし鬱はそれを読んでいたかのように、交わした。風を切る轟音と共に藍色の髪の毛が数本散る。
再度互いに体勢を立て直すために距離を取る。
どちらが、動くべきか読み合っているところに、声が響いた。
「トントン、退きなさい」
「A…」
「ここで主役が登場ってか。熱い展開やねぇ」
「…鬱王子。私と、勝負をしてください」
「弓勝負じゃ足らんかった？」
「あなたは、まだ諦めていないでしょう。完膚なきまでにその心、折ってみせます」
晴天に当てられて銀色に剣が輝く。
「髪の毛、随分と短くなったなぁ」
まるで彼が髪を撫でたように風が吹いた。
「俺も姉さんと決着をつけないかんと思っとったよ」
血が滲む腕を押さえもせずに彼は笑う。
「それでも、あんたと戦う気はない。なぁ、そうやろ？」
鬱が見ていたのは、ゾムだ。
私は咄嗟にゾムを隠すようにしたが、そんな私の肩に触れて彼は前に出る。
「せやな」
新緑が力強く光る。
「一人の男として決闘を申し込むわ」
「受けて立つで」
間に入ろうとしたが、トントンが止める。
声すら掛けれず私は佇む。
「なあ、君の願いはなんや？」
鬱の言葉に対して、ゾムが口を閉ざす。
「正直に言ってや。俺はな、君を倒して王になる。そこで俺の望むまま生きるんや。その望みのためにはAが必要でな……。で、君の本心は？」
「……俺なんかが望んでいいんか」
「願うぐらいなら、誰であろうと自由やろ」
揺れる新緑と目が合った。
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鳩山(プロフ) - 妹。さん» コメントありがとうございます…！後半は色々と盛り込んでしまいましたが楽しんでいただけたなら幸いです。ご愛読本当にありがとうございました…！ (2020年10月17日 11時) (
レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
妹。(プロフ) - 友人に勧められて拝見させて頂きました。原作も知っていたのですが、原作の終わり方は中々はっきりとはいかなかったと思うので、急展開でも寧ろバリバリのハッピーエンドになってるのが個人的にめちゃくちゃに好きです。ほんとに良かった。涙ながら読みました… (2020年10月17日 4時) (レス) id: 15a5300c38 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ものくろ。さん» コメントありがとうございます…！原作を読み、感動のあまり書き殴ったものですが楽しんでいただけたようで何よりです…！最後までお付き合いしていただき本当にありがとうございました…！ (2020年8月3日 15時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
ものくろ。(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました（笑）私も原作を読んだことがあり「もしかして…」と読み始めたこの作品ですが本当に楽しませてもらいました！原作久しぶりに読み返そうかなと思ってみたり…笑 最後までありがとうございました！お疲れ様でした！ (2020年8月3日 15時) (レス) id: f4afc82ded (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 野々宮蓮花さん» 野々宮先生……あ、ありがとうございます！語彙なんて必要ありません、感想を下さったことに涙が出てきてしまいます。最後までお付き合いしていただき本当にありがとうございました。私は幸せです。 (2020年7月13日 19時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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