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また、増えた。
ゾムは彼女の前に膝をつくトントンを見ながら思う。勇猛果敢な彼女に触れてしまえばどんな人間だって彼女に従いたくなる。それは初めて彼女と出会った時から変わることない。
聡明な頭だけでなく、黄国の血を引く麗人。
いつだってゾムの心を掴んで離さない。
近くて、遠い。そんな存在が彼女であった。
土妃の息子が彼女を見つめる視線は男だけに分かる劣情が。グルは彼女を女王にするために時間をかけた。エミも彼女の導きを手助けするように教養を。
黄妃が亡くなり不安定な彼女の側にいるのは自分だけ。なんて優越感に浸っていたが彼女が最後に頼るのは自分ではなくなってしまう気がして、焦る。
「日の当たるいい場所だね」
トントンに案内された室は王族が来るべき場所ではない簡素な造りだ。それでも嫌な顔一つせず、王宮に居た時よりずっといいと彼女は笑う。
「……」
無防備にゾムに寄り掛かってきた彼女の髪を、傷つけないよう優しく掬う。
「どうしたの？」
「Aはいつか俺の手をすり抜けてどこかに行ってしまいそうやなぁ」
「元からゾムの手の中に入ったつもりはないけど」
小刻みに肩を揺らして彼女は笑うから、それがまた愛おしくなってバレないように掬った髪に口づけを落とす。
いつの日か彼女は自分にとって届かぬ存在になるのだろうか。彼女の目指す"女王"。
それが一体どのようなものなのか自分には分からない。
この想いを彼女に伝えたくとも、きっと彼女にとって邪魔になるのだろうから…。ゾムは心に蓋をする。
「なあ、A」
「ん？」
「こっからやな」
「…そうだね。ここからだ。」
彼女の頭に一際輝きを放つ簪が刺さっている。これは、グルと初めて会った日に彼に彼女が渡したもの。グルはこの価値がわかった時お前に返す、と言ってずっと…六年もの間預かっていた。
彼女の数少ない持ち物を側にいた自分が見間違えるわけがない。
Aは自分の知らない時を、グルと過ごしていた。そしてこの美しい髪の毛を、自分以外の男が解いたのかもしれない。
そう思うと胸の奥底から真っ黒な泥のようにへばりついてくる気持ちが湧き上がってきた。
「A、お願いやから置いてかんといてな」
「本当にどうしたの？」
彼女は振り返ってゾムの目を見る。
「ゾムの手の中に私はいないけど、私の手の中にゾムはいる。私がゾムを手放すわけないじゃない」
そして腕を包み込んで笑うから、ゾムはなんだかひどく泣きたくなった。
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鳩山(プロフ) - 妹。さん» コメントありがとうございます…！後半は色々と盛り込んでしまいましたが楽しんでいただけたなら幸いです。ご愛読本当にありがとうございました…！ (2020年10月17日 11時) (
レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
妹。(プロフ) - 友人に勧められて拝見させて頂きました。原作も知っていたのですが、原作の終わり方は中々はっきりとはいかなかったと思うので、急展開でも寧ろバリバリのハッピーエンドになってるのが個人的にめちゃくちゃに好きです。ほんとに良かった。涙ながら読みました… (2020年10月17日 4時) (レス) id: 15a5300c38 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ものくろ。さん» コメントありがとうございます…！原作を読み、感動のあまり書き殴ったものですが楽しんでいただけたようで何よりです…！最後までお付き合いしていただき本当にありがとうございました…！ (2020年8月3日 15時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
ものくろ。(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました（笑）私も原作を読んだことがあり「もしかして…」と読み始めたこの作品ですが本当に楽しませてもらいました！原作久しぶりに読み返そうかなと思ってみたり…笑 最後までありがとうございました！お疲れ様でした！ (2020年8月3日 15時) (レス) id: f4afc82ded (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 野々宮蓮花さん» 野々宮先生……あ、ありがとうございます！語彙なんて必要ありません、感想を下さったことに涙が出てきてしまいます。最後までお付き合いしていただき本当にありがとうございました。私は幸せです。 (2020年7月13日 19時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
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