今宵、暁が焦がる頃に弐 (ページ36)

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宮舘「まさか、翔太まで「贄」にされていたとは思いもしなかったものよ」
渡辺「あそこにいる奴等は、そういう事平気でやる奴だったじゃん。…阿部の事然り」
宮舘「そうだねぇ、少し排他的な者ばかりだったねぇ」
閉鎖的な小さな村だったから、余計に遅れていたのかもしれない。
当時の事を嘆いていても仕方はないのだけれども。

宮舘「それでも、あの時はびっくりしたものよ。あの綺麗な崖の怪異が翔太の仕業だというのだからねぇ」
渡辺「…元はと言えば涼太が先にいっちゃった所為」
宮舘「…それは悪かったよ」
暫くあの村から離れる事が出来なかった宮舘が、ある事件をきっかけに離れて阿部と共に白雪神社に住み着いてすぐの頃。
自分の生まれ故郷であり思い出の場所である崖で怪異の話を聞いたのだから、当時はそれはそれはとても驚いたものだ。
何だ、確か「崖下から聞こえる歌声を聞いた女性が次々と崖から身を投げてしまう」だったか。

宮舘「何事かと思って行ってみれば、翔太だったもの。あの時は奇跡かと思ったねぇ」
渡辺「…あんまり覚えてない」
宮舘「だろうねぇ」
未練と憎悪に溺れて縛られていた渡辺は、きっと自分じゃないと止められなかっただろう。
事実その時共に崖に訪れていた岩本の声は耳にも入っていなかったのだから。
宮舘「何故歌っていたんだい？」
渡辺「覚えてないって言ったじゃん」
宮舘「それでも断片的には憶えているんだろう？」
渡辺「……涼太が、気付いてくれないかなって」
黙りこくった渡辺は、小さく呟いた。