今宵、暁が焦がる頃に弐 (ページ21)

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1人部屋に残された深澤は、暫く宮舘が出て行った部屋の入り口をぼんやりと見つめると、先程の阿部の姿を回顧する。
包帯をぐるぐる巻いた翡翠の瞳の彼は、自分に「本当に人間か」という問いを投げた。
宮舘はどうやら人間嫌いの阿部が「自分みたいに妖を差別しない人間もいる」という風に解釈したようだったが、深澤は何となくその問いの真意を理解した。

人間、だが人間ではない。
「9つの呪い」を引き受けて、年老いる事もなくいつか自らの呪いが全て解けて、最後の「不死の呪い」が解かれる日を待つ彼は、人間でも異質な存在であろう。
阿部が何をもって気付いたのかはわからないが、人でもない、されど妖でもない自分に訳がわからなくなっているのは目に見えた。
自分でもよくわかっていない。自分は本当に「人」と呼ばれていいのか、けれど、ここにいる彼等と「同じ」でない事も明らかだ。
…そういえば、軍属の時は散々「化物」だの「怪物」だの言われていたな。
そう考えれば、自分はここの彼等と「同じ」でなくても「似ている」のかもしれない。
一緒にしていいかは、疑問が残るけれども。

深澤「…そういや、声、」
たった一言だけだったけれども、阿部は確かに自分の前で発話した。
彼の声を聞いたのは、久しぶりだった。
退廃都市で暴れていた時も彼は笑みを絶やさず口角をあげるだけで一言も喋らなかったし、童話の力を借りて影と戦っていた時も代償の所為で言葉を喋る事が出来なかった。
軍属の時も、途中で機械の様になってしまった彼は、結局散り散りになるまでその口を開く事はなかった。

いくつもの世界を転々として、何度形名前が同じ8人に出会っても、阿部の声は聴けなかったのに。
深澤「…あんな、声だった。……そう、そうだね、あべちゃんの声、は、」
震えた様な小さな声だったが、記憶から抜け落ちてしまっていた声を思い出すのには十分だった。
確かめるように呟いて、下を向いて、笑みを浮かべる。
小さな幸せに、崩れてしまった時の恐怖が付き纏うのを振り払うように、だってまた声を聞く事が出来たじゃないか。幸せを享受したって、恐怖なんて、ないんだから。
そう思い続けながら、彼は声を出さずに笑っていた。