今宵、暁が焦がる頃に弐 (ページ13)

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その日、いつものように崖で少年が話す幸せなんちゃらを聞いていると、プツリ、と何かが切れるような音がした。
また傷が増えたのかと思って、何気なく右腕を見て、思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
それは禍々しいくらいに綺麗な緑色の目で、咄嗟に袖で隠した。
何、これ。何だこれ。
頭の中が真っ白になると同時に恐怖と不安が一斉で頭の中がぐちゃぐちゃとなる。

「どうしたの？」
阿部「……なん、でもない」
少年の声に震えた様に返す。
「右腕？腕またご両親に何かされたの？」
阿部「違う！…違う、大丈夫、だから」
「大丈夫じゃないでしょ、ほら見せて」
阿部「あっ…！」

袖をまくられて、露になったその腕に着く緑色の目に、彼は驚いた様に固まっていた。
阿部「…っ、ごめん、」
何で謝ったのかもわからないが、彼が何か反応する前に自分はその場所から逃げるように駆け出した。
結局、その日以降あの少年は来なかった。

日に日に傷口はどんどん開いて目になって、阿部は首筋や右頬にまで広がったそれを隠す為に髪を伸ばした。
伸びた髪で隠して、なるべく人目のつかないように1日の大半を崖で過ごして、崖から飛び降りようとして、それでも何故か飛び降りれない意気地なしの自分にまた嫌になって。
そんな悪循環を繰り返して、ある日急に村長と村の大人たちが家に来て、自分の腕を無理矢理引っ張って、その目を目撃して、もう思い出したくもない罵詈雑言を浴びせながら、刃物とか、鋏とかで、――あぁ、あの少年が、化物を見るような目でこっちを見ていたなぁって。

阿部「…もう、やだ」
鮮明に色づいて離れない記憶がぐるぐる回る。
阿部は見たくない、というように脳裏から引き離れるように祈りながら、ぎゅ、と目を閉じた。