今宵、暁が焦がる頃に弐 (ページ12)

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阿部「…」
部屋の片隅、1番陽の当たらない場所で足を抱えて横になる阿部は、ぐらぐらになってしまいそうな脳内で思い出したくない昔話を排除しようとしていた。
嫌な思い出程脳裏に焼き付けるように残る、なんて言ったのは誰だ。
こびりついて離れてくれないそれは、余計に阿部の気持ちを泥沼の中に落としていく。

お金もないのにどこから手に入れたのかわからない食料。
それすらも、阿部自身はほとんど貰った事はないけれど。
どこかで傷付けた訳でもないのに日に日に身体中に増えていく傷のようなもの。
でもそれを心配してくれた事なんて1度もなかった。
心配どころか、自分に声をかけてくれた事もなかったな。

結局何だ、親は盗みをして食料を手に入れていたとか、だったか。
自分は何もしていないのに村の人がずっと蔑んだ目で見てくるのが嫌で。
視線を感じたくなくて、いつも森を抜けた先にある海の綺麗な崖にいた。
崖下から聞こえる歌を綺麗な歌だなぁ、って思いながら、ここから飛び降りたら楽になれるかなぁ、って、導かれるように崖から飛び降りようとして。
「だめ！」
村の少年に腕を掴まれたんだ。

確か、悪いのは親御さんで、君は何も悪くないでしょう？なんて言っていた、少年だった。
傷だらけの自分を見て、勝手に家でも酷い目に遭っていると勘違いして、じゃあ自分が幸せを教えてあげるよ！なんて言っていた、変わった少年。
「明日もここで会おうね」なんて、一方的に約束を取り付けて、それで、本当に毎日来たんだ。