六人 ページ39
久々に脚を踏み入れたAの部屋は、埃臭いことを除いては前となんら変わっていなかった。
最低限の家財だけが置かれ、綺麗に片付けられたそこは、まるで、時が止まっているかのように感じる。
不意に、小さいテレビの前に置かれた写真立てが目に入った。
近寄って手に取り、よく見てみる。
中に入っていたのは家族写真であろう、Aと、彼の両親が写っている。
両親とAはともに笑顔だが、Aの目は笑っていないのがわかった。
写真の右下には、日付と、“最後の家族写真”という文字が書かれている。
ああ、これは彼の両親が死ぬ直前に撮られたものか。
彼の両親は、盗みに入った一人の男に殺された。
そして、その場に居合わせた彼が、男を殺した。
確か、その頃からだ。
彼が夜行となったのは。
写真を元に戻し、部屋を見回す。
光里達はもう部屋に入って来ていて、各々彼の寝室だったり棚だったりを、ダンボールを片手に整理していた。
ふと、部屋の奥の押し入れに目が止まる。
そういえば、この中は一度も見せて貰えなかった。
開けようと近づいて取手に手を掛ける。
中は余り整頓されていないのか、ガタガタと時折何かに引っかかりながらも、なんとか襖は開いた。
途端、嗅いだ事のある臭いが鼻を掠めた。
吐き気が込み上げてくるような腐臭に、どこか甘酸っぱさが混ざった、嫌な臭い。
彼に染み付いて、離れなかった。
死臭。
押し入れの中はグシャグシャになったシャツ、多数のナイフ、殺人時に持ち帰ったであろう血のついた岩、夜行の事件を取り上げた新聞記事の切り抜きなど、彼が起こした殺人に関するものでいっぱいだった。
予想はしていたが、それでも多少の驚きはあった。
しばらく呆然とそれを見ていると、山になっていたシャツが崩れて、中から何かが俺の足元に落ちた。
恐る恐る視線を落とす。
それは、まごう事なく、彼が使っていたもの。
ハサミを模したそれは、彼が自らの手で作ったもので、二つに分かれる様になっている。
もし警察が来ても怪しまれない様に、と言っていた。
よく見ると、本来几帳面である彼の性格が良く出ていて、ハサミの持ち手には鳥の彫刻が施されている。
そうしていると背後から物音が聞こえ、驚いた俺は思わずそれを掴んでポケットに突っ込んだ。
ーーー
この作品の本編が始まってからもう数年経っていますが、未だにこの作品を読んでくれる方がいるのは本当にありがたい事です。
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もくもく@鬼灯なぅ - みーさん» あ、本当ですね！ご指摘ありがとうございます！ (2015年11月7日 1時) (
レス) id: 4a5e4162ae (このIDを非表示/違反報告)
みー(プロフ) - 報告書二枚目の、近所の大学生と若い警官数名が犠牲になった事件で、夜行が夜光になっています。故意でしたら、すみません。 読んでいてとても引き込まれる話で、面白いです。私もこんな風にかければなあ笑 (2015年11月4日 20時) (レス) id: bcd7e9b2cd (このIDを非表示/違反報告)
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