鏡の呼吸 漆ノ型 ページ25
無惨Side.
何だ、これは?
ああそうか、ここは初めて逢紅と逢った場所だった。
その時の逢紅は、いつも袴を履いていた。
長い紅の交じる、一つに束ねた茶髪。赤茶の瞳。
純粋無垢な、その後ろ姿。
私があの子に気を取られたのは、きっとあいつが純粋すぎたからだ。
俗世間に絶望していた私の前を、水を汲みに行く、アイスクリンを食べに行く、何里か先の家にいる友達に会いに行くと言って颯爽と通り過ぎていった。
私は何度目かに、思わず声をかけてしまった。
「え?」
あいつは目を見開いた後、表札を確認した。
「あ、えっと…栗山、さん、ですか?」
そうだ、声をかけるのは初めてのことだ。この反応に無理はない。
「いつもここにいらっしゃいますよね。おいくつですか?あ、私は二軒隣の孤児院にいる、十四の、黒染逢紅と申します。」
名前も知らない人に個人情報を教えて良いものか…←
私は自分の名前を名乗った。
ここでの私はあくまで《十六歳の栗山清太郎》であったのだから。
「清太郎さんというんですね」
その時逢紅が浮かべた笑みは、何の不純物も混じらない、正真正銘の微笑であった。
恋情といっても可笑しくはなかったのかも知れない。
毎日縁側まで遊びに来るようになった。
肉体の歳も近く、すぐに打ち解けた。まぁ、その間は鬼舞辻無惨としても仕事をしていたのだが。
その時に渡したもの、それがあの簪だった。
「お前にやる」
少々言葉足らずだったが、逢紅は素直に喜んでいた。
「まあ、本当に?清太郎さん、ありがとう、嬉しいわ!」
そこまでだった。
次の日、逢紅の家は黒死牟、実母、そして実母の愛人の階級もない鬼らによって喰われた。
「せ、清太郎さんっ…!」
そこで逢紅は初めて”鬼舞辻無惨”を見た。
駆け込んできたその姿は、もはや逢紅ではなかった。
髪は碧や漆黒に染まり、目も明るい茶色から暗い灰色になっていた。
絶望という言葉を初めて知った時の表情だ。
あっさりと鬼舞辻無惨の我が身を晒した時、その目は言いようのない怒りに燃えていた。
殺そうと思った。でも、体が言うことを聞かなかったのだ。
「鬼舞辻無惨」
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作者名:零堂June | 作成日時:2020年9月2日 12時