朔と日第三幕【鬼滅の刃】【竈門炭治郎】 (ページ42)

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百十四話ページ42

『A』

聞こえるはずないのに、師匠の声が聞こえた。

『俺達はずっと、生まれた時からずっと罪を犯し続けるンだ。そうやって抱えきれないほどの罪を背負って生きていく』

『奪う事に生き甲斐を見出して、暗闇の中で初めて息ができる。そんな人間は俺達以外にも大勢いる』

『だからな、A。お前にはその暗闇を照らす唯一の光になってほしいンだよ』

『向こう側の明るい世界の奴らには見えなくてもいい。ただ闇を静かに照らし続ける、朔の月のように』

目を見開く。

稽古をつけてくれてた時のあの人は、いつものように笑っていた。

『A』

聞こえるはずないのに、師範の声が聞こえた。

『お前はさ、分からないんだろ？生きる意味の無くなったこの世界に価値を見出す方法が』

『見つからねぇよ、そんなもん。ゴミ溜めで生きて来たお前が一番分かってんだろうが』

『俺から言えるのは一つだけ。まぁ気休め程度には覚えとけ』

『いいか？俺達には、足掻いて、走って、藻掻いて、その先にきっと答えがあると信じる事しかできねぇんだよ。まぁ派手に苦しめや』

歯を食いしばる。

あの時まさに殺されそうになってたあの人は、いつものようには笑っていなかった。

『A』

聞こえるはずないのに、友人の声が聞こえた。

『俺はお前の事まだよく知らないけど、分かるぞ？お前が誰よりも仲間を大切に思っていて、誰よりも救えなかった事を後悔してる事』

『俺はお前に苦しんでほしくない。自分のせいだって自分を追い詰めて欲しくない』

『俺は信じるよ。もし俺が死ぬかもしれないって時でもきっとお前が助けに来てくれるって』

拳を握り締める。

優しく抱き締めてくれたあの人は、とても暖かかった。

諦める？

馬鹿を言うな、今までに俺にどれだけの人が託してきたと思ってる。

忘れた訳じゃないだろう。忘れちゃいけない。

だってこれが、俺の希望なんだから。

『俺は信じる』

ああ、きっとこれが俺の宿命なんだ。