九十四話 ページ21
Aはそれに気付く事など造作も無かったが、ここでは気付いていない事を装う。
「どうしてですか?」
対する女は微かに顔色を悪くさせて、さらに声を潜める。
「アンタ達が来る前の日だったかしら。一人の禿が転んで蕨姫の顔にお茶をぶちまけたのよ。それも熱々の」
「うわぁ…」
それは痛い。
「まだ入ってから間もない子だったから慣れてなかったのね…。お茶も異常に熱かったみたい、蕨姫の顔に掛った途端ジュって音がしたもの」
「……じゃあ蕨姫花魁は顔に火傷を?」
そう問うと、彼女は真っ直ぐにAの目を見つめて首を振った。
「いいえ。不思議と傷一つなかったのよ」
「…」
皮膚が焼ける音を聞いた人間がいるにも関わらず、火傷は無かった。
「…お茶がかかった時蕨姫花魁はどんな感じだったんですか?」
「そうねぇ…顔を押さえて離れの方に走って行ったわ」
「そう、ですか」
Aの脳裏にとある仮説がよぎった。
(蕨姫は、鬼かもしれない)
鬼であれば傷が付いても元通りに治癒される。火傷程度ならば数秒で戻る。
音柱の妻達の失踪に何か関係があるのかもしれない。
「あの、それでその転んでしまった禿の子はどうなったんですか?」
「いないわよ」
「え?」
「何故かその日の夜から誰も姿を見てなくてね、彼女の部屋に日記があって「足抜けする」って書いていったみたい」
偽装だ。
直感でそう思った。これで先程の仮説が濃厚になっていく。
「あの!」
「な、何?」
「蕨姫花魁って他に何か」
刹那、Aの中の糸がピンと張りつめた。
「危ない!」
彼女を押し倒して迫りくる危機を回避する。
A達が飛び退いたのとほぼ同時にふすまがふっとんできた。
ふすまを突き破って何かが飛んで来たのだ。
「なっ、何なの!?」
「下手に動かないでください」
鬼の気配がする。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月18日 18時