九十二話 ページ18
結局Aと、そして善逸は京極屋に雇われた。
善逸も連れて行けと音柱が目で訴えて来たので、「私とこの子は幼馴染なんです…!」と可哀想な少女を演じた。
その結果Aと善逸は共に潜入する事となったのだ。
ここに行きついた経緯を思い出しながら、Aはベンベン三味線をかき鳴らす同僚を眺める。
「あ…あの子三味線上手いわね…」
「そうね…凄い迫力」
芸台の上で三味線をヤケクソ気味に演奏するは善逸であった。
三味線を手にしてまだ数分しか経っていないというのにもう熟練者の風格だ。
(と言うか、何でそんなに怨念が籠ってんだよタンポポ君や)
大体予想はつくが。
「最近入った子?」
「耳が良いみたいよ。一回聞いたら三味線でも琴でも弾けるらしいわ」
Aが善逸を連れて行きたいと懇願するのに対し、京極屋の女将は渋っていた。
が、音柱が「便所掃除でもなんでもいいんで貰ってくださいよォ。いっそタダでもいいんでこんなの」の一言で決断したらしい。
どれにせよ善逸の怒りは燃え上がるばかりだ。
周りの遊女が引いているのにも気付かず、ただ音柱への怨恨の音色を響かせている。
「――で、この子は何なの?」
まぁA自身もそんなに余裕じゃないんだけども。
「確かに顔は良いけど…」
「無愛想にもほどがあるんじゃない?」
連れて来られてから一切笑わないどころか今にも人を殺しそうな気配を纏っている。
先輩遊女たちが総出でAを笑わそうと必死になっているのが現状だ。
「あんた、ちょっとは笑わないと客寄り付かないわよ」
「…」
「まずその目をどうにかしないとね。ほらこう」
「…」
一人の遊女が満面の笑みを浮かべる。
それをAが無表情に見上げる。
そして、沈黙。
「…」
「…」
「……だッ」
先に屈したのは当然のように遊女である。
彼女は頭を抱えて畳にうずくまった。
「駄目だわ!!全っ然笑わないんだけど!!」
「…」
「ちょっとそんな目で見ないで!?私が頭おかしいみたいじゃない!!」
補足だが、Aが黙り続けているのには不機嫌以外の理由もある。
(な、なんか言った方がよかったのか…?)
若い女性と全くと言っていいほど関わってこなかったから戸惑ってるだけだよ。
いるよね。戸惑うと表情筋が死滅していく人。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月18日 18時