七十話 ページ30
あの時。
煉獄さんが、最期に子供みたいな無邪気な笑顔を残していった後。
『汽車が脱線する時…煉獄さんがいっぱい技を出してさ、車両の被害を最小限に留めてくれたんだよな』
『…そうだろうな』
『死んじゃうなんて、そんな…ほんとに上弦の鬼来たのか?』
『…ああ』
『なんで来たんだよ上弦なんか…そんな強いの?そんなさぁ…』
善逸も信じたくないようだった。
今にも泣きそうに鼈甲の瞳を潤ませて呆然と問い掛ける。
『うん…』
短く答えた炭治郎の声は、既に泣いていた。
『悔しいなぁ…何か一つできるようになっても、またすぐ目の前に分厚い壁があるんだ』
ポロポロと大粒の涙を流す。
『凄い人はもっとずっと先の所で戦っているのに、俺はまだそこに行けない…』
『…』
『こんな所で躓いてるような俺は…俺は……煉獄さんみたいになれるのかなぁ…』
炭治郎の喉から弱々しい声が漏れ出ていく。
善逸の涙腺も決壊し、とめどなく涙を流していた。
その時である。
『弱気な事言ってんじゃねぇ!!!』
湿った空気を裂く力強い声が彼らの鼓膜を揺らした。
伊之助が声を震わせながら、それでも必死に叫んでいる。
『なれるかなれねぇかなんてくだらねぇ事言うんじゃねぇ!!信じると言われたなら!それに応える事以外考えんじゃねぇ!!!』
本人には絶対に言えないが、伊之助をここまで頼もしく思ったのは初めてだ。
いや、気付いてなかっただけかもしれない。
親分だもんな、とAは眉を下げた。
『悔しくても泣くんじゃねぇ!!どんなに惨めでも恥ずかしくても!生きてかなきゃならねぇんだぞ!!!』
『…お前も泣いてるじゃん…被り物から溢れるくらい涙出てるし。Aに抱き着いたままだし…』
『俺は泣いてねぇ!!!』
伊之助渾身の頭突きが善逸に炸裂する。
ふっ倒れた善逸には目もくれず、彼は日輪刀を抜いた。
『こっち来い!!修行だ!!!お前も刀を抜け!!柱なんだろ修行するぞ!!!』
『…うん…』
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時