七十一話 ページ31
「知らず知らずのお月様」
暗闇に埋もれた夜道、小さく儚い歌声が響く。
「身を焦がせし日輪の日」
煉獄邸へ向けAは小石を蹴りながら歩いていた。
濁った瞳がぼんやりと記憶を眺めている。
『悔しくても泣くんじゃねぇ!!』
「……何でかなぁ…」
何で、あの時泣けなかったんだろう。
悲しかったのに。悔しかったのに。泣きたかったのに。
でも涙は出なかった。目を濡らしさえもしなかった。
こんなんで、煉獄さんを悲しませはしなかっただろうか。
きっとそうだ。
俺はいつも誰かを悲しませる。
しかもそれを慰める術を知らないから何もできない訳で。
「…」
笑おう。
苦しくても笑っていればきっと楽になれるはずだから。
あの人を失ったあの時も、笑顔でいられたから。
「…よっし!湿っぽい気持ちはやめ」
「殺してやるゥゥ!!!!」
自分で気持ちを切り替える必要は無かったみたいだね。
疲れてるのかな俺。かなり物騒な幻聴が聞こえた気がする。
「うぉおぉぁぁああっ!!死で償えェェ!!」
違ったわバリバリ聞こえたわ。
「すみませんッ!!!」
ついでに奴の声も聞こえた。
Aの表情筋が死滅していく。
さっきの重苦しい空気と差があり過ぎて風邪引きそう。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時