六十一話 ページ21
列車ごと切り裂かんとする風圧を帯びた斬撃が芋虫共を引き裂いていく。
任された三両の内、一両は善逸と禰豆子に任せた。
そして二両分の芋虫最後の一匹を刀で突き刺した時である。
「ギャアアアア!!!」
「!?」
脳が直接揺さぶられるような断末魔が響き渡り、Aが耳を塞ぐ。
同時に列車、もとい鬼の身体がのたうち回り始めた。
「お、おぉ?」
「うわぁあっ!!」
「!?」
聞き覚えの無い悲鳴。
Aが素早く振り返る。
そこには乗客の一人、まだ七つにも満たない小さな男児が頭を抱えてうずくまっていた。
列車同士を繋ぐ、連結部分に。
「チッ」
Aの視界が九十度回転した。
それでも床を強く踏み込んで彼の元へ一気に向かう。
平衡感覚がおかしくなるわこれ。
「っお母さ」
「下手に動くなよ!!」
あと少しで手が届く。
あと少しで連結部分が千切れる。
・
・
「――いっ、つぅ…」
結果として、列車は走っていた堤防から落ち、横転した。
車両は大破しているが、後の調査によると死者は"一名"だけだったそうな。
車両に絡みついている特大芋虫が緩衝材になってくれたのかもしれない。
まぁどちらにせよ芋虫は嫌いだけど。だって気持ち悪いじゃん。
「……おい、大丈夫か?」
状況を確認してから、Aは己の腕の中に呼び掛けた。
そこには彼女の隊服をひしっと掴む男の子がいる。
気を失っているようで応答は無い。
「無事…だな」
彼女の右足を別とすれば。
車両の破片か何かがAの脛の辺りに直撃したのである。
この男児を庇おうとしなければ骨が砕けるなんて事は無かった。
「――変わったな。俺も」
男児は他の乗客に任せ、Aは右足を引きずりながら仲間達の元へ向かった。
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作者名:名梨 | 作成日時:2020年1月12日 18時