期限付きで家事代行いたします。【櫻井孝宏】

1 ページ1

.



『…こ、ここが…職場ですか…』



何故私が今、東京の某高級住宅街に並ぶ一際背の高いマンションの目の前に立ってるかというと、時は昨日のお昼に遡る……




ーーーーーーーーーー




「で？今転職中なんだ？」


『そう〜、だから見つかるまでのバイト探し中なんだよね』


「絶賛フリーターじゃん、羨ましい」


『いやお金あるフリーターなら羨ましいけども』




夏本番前とはいえ暑苦しい中、親友の菜緒とよく冷房の効いたカフェでランチをしていた。
菜緒とは小学生の頃からの幼なじみで親同士も仲が良く、家族ぐるみの付き合いだ。
お互い都内に就職してからは月に数回食事に行って近況報告をし合ったりしている。今回は私の転職の話題がメインテーマかもしれない。


数日前に勤めていた広告代理店を辞めた。
大学を卒業してから就活中に受かった会社に入社したはいいものの、特別したかった仕事でもなく、何となく仕事を熟す毎日だった。とりあえず3年は勤めてみたら？と菜緒の助言もあり、やれるところまでは続けてみたものの、やっぱり自分のしたいこととは違う気がして入社5年目を終え、特に次のあてもなかったが突発的に会社を辞めた。




「にしても無計画で会社辞めちゃうとこがAっぽいわ」


『今年で28歳になるじゃん？あと2年で30と思ったら、今辞めないとズルズル定年退職するまでいる気がしてさ』


「まあね、あんたの場合独身のまま気づいたら定年になってそうだわ」


『独身付け足さなくてもよくない？』


「そんで転職探し中の繋ぎのバイト探し中なんだ。ややこしっ」


『今のところ貯金でなんとかなってるけど、やっぱりお金は稼いでおきたいじゃん』


「ん〜……じゃあさ、うちでバイトしない？」


『え？』


「実家の会社。家事代行サービス。」


『そういえば菜緒の実家ってお手伝いさん派遣してる会社だったっけ』


「そうそう、大本は地元にある会社だけど私は東京支社で働いてんのよ」


『そういえばそうだったわ、あんた社長令嬢なんだったわ』


「そんな大したもんでもないけど」


『いや十分でしょ……』




.

2→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す