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『神楽ちゃーん……妙ちゃーん……』


隣の人にも聞こえるか聞こえないかぐらいの
声で小さく呟きながら、人混みの中に
紛れる。

せっかく3人でお祭りに来たと言うのに、
私は迷子になった。
仕方ないだろうこの人混みじゃ。

たぶん神楽ちゃんと妙ちゃんも離れた
場所にいると思う。

はぁと溜息をつき、気を抜いた瞬間に
大きな衝撃が背中を押す。
思わず前にのめり込んだ時、私は誰かに
顔をぶつけてしまった。


『いてて……あ、すみません』

「……あり、Aじゃねぇか」


聞きなれた声にハッとして、秒で上を見上げる。
そこには涼しい顔をして、この人混みを
諸共しない沖田さんが立っていた。

今の私には、沖田さんが唯一の心細さからの救いであり、
頼らない他はなかった。


「昔から人混み苦手だったな」

『にしても多すぎますよ……おまけに会場広いし、
スマホを開く余裕もなくて』


顔を歪める私の手首を掴み、沖田さんは
スタスタと歩き始める。

突然の行動に慌て引かれるまま歩き出し、
ときどき人に肩をぶつけながらも
私達は比較的人の少ない所に来た。

先程の息苦しさはなく、多少の煙たさは
あるが私は空気を一気に飲み込んだ。


『はぁ、生き返った……ありがとうございました』

「いや……」


沖田さんはクルッと背を向けてしまう。

何なんだと顔を覗き込もうとしたら
顔面を片手で掴まれる。


『な、なにするんですか……』

「うるせぇ」


沖田さんはやっと手を離したかと思うと、
一度私の目を見て呆れたようにため息をつく。

私は赤く腫れそうな頬を擦りながら、
沖田さんを睨んだ。

沖田さんはハタハタと風に揺れる私の
浴衣の裾を掴んで持ち上げた。
突然の行動に首を傾げた。


「これ、お前ん家のやつ?」

『いえ、妙ちゃんが貸してくれて……
神楽ちゃんと色違いなんですよ』


ピンクと白が交差した、綺麗な花柄の浴衣。
髪まで妙ちゃんが整えてくれたと、私は
沖田さんに少し自慢をする。


「……へぇ、似合ってんじゃねぇの」


そう言ってまたクルッと背を向けた。

……なるほど、照れてるのか。

私はクスッと笑った。
それが彼にも伝わったのか、睨みながら
振り返って私の頭を強く殴る。

私は痛いと騒ぎながらも笑いが止まらず、
肩で息をしながら落ち着くと、顔を上げた。


『ありがとうございます』


こんな広い会場で出会えた事も運命とさえ
感じてしまう。

私は、彼を好きになってしまいそうで
怖かった。

・→←△お祭りで迷子はお約束



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ももりんご(プロフ) - かみゅいさん» わぁ〜ありがとうございます!(><) (2017年2月25日 13時) (レス) id: 694f30da04 (このIDを非表示/違反報告)
かみゅい(プロフ) - 続編おめでとうございます(*´ω`*) (2017年2月25日 0時) (レス) id: 822ee05d7f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ももりんご | 作成日時:2017年2月20日 22時

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