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藤川side
入院した日からの藍沢は、恐ろしい程早いスピードで弱っていった。
少しでも楽にするために、投薬はしているけれど、
それは"抗がん剤"ではない。
最低限の、吐き気止めと水分補給のための点滴と。
出血した時には止血剤。
……本当に、それだけだった。
「……藍沢…、…本当に、良いのかよ、それで…」
そう、何度も聞いた。
何度も考え直してくれと頼んだ。
…………けれど、藍沢は"無表情"のまま、
『これでいいんだ』と、それだけ返して。
…………医者なのに、目の前にいる病に苦しむ同期を……救うことが出来ないなんて。
未だに、頑なに治療を拒む同期に、
何も言ってあげられないなんて。
…………それが、悔しくて____辛くて__
自分は愚かだと、そう思った。
****
藍沢が入院してから、1ヶ月が経った。
最初はデスクワークも出来ていたし、
まだ大丈夫だと思っていたけれど。
もうかなり弱ってきていて、最近は寝たきり。
食事もまともに摂れていない。
本人は、少しでも口から食べようと頑張っているけど、弱った体力では時間がかかりすぎることと、
病院食は胃に負担をかける。
最近は点滴か、ものすごく柔らかくしたお粥くらい。
冴島「…藍沢先生、最近痩せてきましたね…」
「……あぁ、飯食えてねぇしな。……もう、1ヶ月経ったんだな……」
冴島「…………そう、ですね……」
再発して、あの状態なら平均的な寿命は2ヶ月。
……そして、そのうちの1ヶ月が過ぎた。
…この前、初めて藍沢の弱音を聞いた。
『本当は、死にたくない』のだと。
これからも、ずっと医者でありたかった。
………まだ、この年齢なら、できることは沢山ある。
…………だけど、再発はほとんど死を表す。
苦しんで死ぬくらいなら、最期は楽に、苦しまずに、逝きたいのだ、と。
だから、考えに考えて、治療しないことを選んだ…、と。
アイツの口から弱音を聞くことなんて、ないと思ってた。
患者のことしか考えてなくて、腕は良くて、
救命に加えて脳の治療もできる……
そして誰よりも貪欲で。
…………そんな藍沢の願いが、『…生きたい』だなんて、………小さくて、儚くて……。
でも、この選択に、後悔はないのだと藍沢は言った。
その顔は、いつもの "医者"の、藍沢 耕作 の顔で。
…………藍沢と居られるのは、
_________ほんの、僅か…………
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yuuftykk(プロフ) - さくらもちぱんさん» ありがとうごさいます!!楽しみにしてくれているなんて、とても嬉しいです!!頑張ります!! (2019年4月4日 14時) (レス) id: a80528a29b (このIDを非表示/違反報告)
さくらもちぱん - 藍沢先生がかいた手紙とかほんとうに感動しました!毎回楽しみにしています。これからもがんばってください! (2019年4月4日 14時) (レス) id: cdc2a4987c (このIDを非表示/違反報告)
yuuftykk(プロフ) - 愛子さん» ありがとうございます!!リクエストにお答え出来ていて良かったです!こんな作者ですが、これからもよろしくお願い致します! (2019年4月4日 9時) (レス) id: a80528a29b (このIDを非表示/違反報告)
愛子(プロフ) - リクエストした話読みました。個人的には、これまでの話の中で一番です。これからもリクエストさせていただきます。 (2019年4月4日 2時) (レス) id: 0fe946f898 (このIDを非表示/違反報告)
yuuftykk(プロフ) - 実桃さん» そんなことを言って頂けて、とても嬉しいです!!毎回読んでくださってありがとうごさいます!頑張ります、!! (2019年4月4日 0時) (レス) id: a80528a29b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:自鳴琴 | 作成日時:2019年2月18日 21時