れもん哀歌

25-Do ページ25

「鈴木くんのこと 許してあげてください
「俺は葬儀に行けないから代わりに出てくれ」って あたし頼まれて青森から来たんです
鈴木くん不安になったんだと思います 果歩ちゃんを幸せに出来るのか」


出入口に鈴木さんが見えた


「それで1度は逃げちゃったけど 彼なりに果歩ちゃんのこと愛してたんだと思います」


白いハンカチで目元を拭う姿が 余りにも白々しくて

少し嫌悪感を抱く


「果歩ちゃんも 鈴木くんのこと信じて待ってあげられてたら 自 殺なんてしなくて済んだのに」


足を踏み出す男と ヒステリックに叫ぶ母親

目を見開く女の目尻には 涙なんか1粒もなかった

男の手にはついさっきまで私の手にあった新品のナイフ

男はそれを女の腹部の中心に刺した


『…ちがう、そこじゃない』


逃げ出す参列者と女

赤く光る刃物を握りながらジリジリと詰め寄る男


「ごめんなさい!! 事故だったの
ネックレスちょっと借りたらすぐ返せってしつこかったんだもん ちょっと押したら海さ落ちて」


せっかく刃渡りのあるものを買ったのに

これじゃ意味が無い

上手く扱えないならただの鉄くず同然なのに




三「やめてっ!!」




噴き出す赤色が チラチラ舞う雪と溶け合って

地面に落ちた

暗い色の地面は 更に暗い色を広めていく


ピクリとも動かない女と それを睨み続ける男

止血を始めるミコトをみて

はっと 我に返った


『…夢…なわけないか』


ここまで私が鈴木さんにしてきた助言が

どれ程までに残酷でなんの生産性も無いことに気付いて

この場から逃げ出したくなった


騒動に紛れて逃げ出そうとした時


三「A!! 止血お願い」

『うん』


すぐに染まるタオル

女はかろうじて目を開けていて

私をゆっくり見上げた


『…殺 すなら 殺 される覚悟もしないと』

「…ぇ…」


誰かの全てを奪っておいて

自分だけのうのうと生きようとするその神経がおかしい





犯人は 止血のおかげもあって

ギリギリのところで一命を取り留めた

警察からの事情聴取や

神倉さんから回ってきた始末書の整理などで

しばらく続いた残業が終わった日の更衣室

久々に定時で上がれたことに浮かれながら

ミコトと夕子と話をしていた

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