れもん哀歌

20-Do ページ20

後日

薬毒物検査の結果が出て

用紙を持って教授と共にいる中堂さんの元に向かうと

そこには中堂さんがいなかった


『教授 中堂さんはどこにいらっしゃいますか』
「あぁ さっき警察に 糀谷夕希子さんの件で任意で引っ張られた」


それから程なくして中堂さんは逮捕され

私も任意同行に応じた



薄暗いグレーの取調室の机には夕希子さんの再解剖の写真

それと クソみたいなでっち上げストーリー


「貴方 堂本Aさんは 糀谷夕希子さんと親しい仲にあった」
『はい 夕希子さんは姉のような存在で 誰よりも頼れる女性でした』
「貴方は中堂系に恋心を抱いていた」
『…そんなことありません』
「結婚の話まで出た二人の仲に貴方は嫉妬し 糀谷さんにニコチンを注射して殺 害した」
『そんなことしません 知ってますか？ニコチン中毒はめまい 吐き気 呼吸困難を引き起こします そんな酷いこと私にはできません』
「何故ニコチン中毒がそのような作用をもたらすのを知っているのですか？」
『法医学に携わる者なら 皆知ってます』
「普段の解剖で死体に慣れているなら その手で死体を作り出すくらい簡単ですよね？」
『…それは 死体に慣れているなら人を殺せると言いたいんですか？』
「そうです」
『それなら警察の方だって慣れてるじゃないですか』


似たようなでっち上げストーリーを毎日毎日浴びせられて

もう容疑を認めようとした時

突然取り調べから開放された

中堂さんも証拠不十分で釈放されて

私たちは二人揃って日彰医大を解雇された



それからというもの

中堂さんは夕希子さん殺しの犯人を

血眼になって探していた

寝てるのか不安になるくらい連日駆けずり回って

私はそんな彼を支えるために

夕希子さんで溢れる彼の家に通って食事を作った


ある日 大雨が降って 中堂さんはびしょ濡れで帰ってきた

玄関で彼を迎えるとそのまま前のめりに倒れて

私を巻き込んだまま気を失った


『中堂さんっ！うわ 熱がある…』


度重なる疲労と冷たい雨で 中堂さんは高熱に襲われた

それから二日間中堂さんは魘され 私はそれを付きっきりで看病した


彼が目を覚ました時

汗ばんだその手をゆっくり私の頬に添わせて


「夕希子…」


掠れた声で呼んだ

弱々しいその姿を一番近くで支えたくて


『夕希子さんの代わりにはなれないかもしれないけど 誰よりも貴方を大切にするし 支えるから だから貴方の一番近くにいてもいいかな？』
「…あぁ」


私は系ちゃんの恋人になった

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