れもん哀歌

19-Do ページ19

夕希子これから系ちゃんとピクニック!!

海を背景にした中堂さんの後ろ姿

その写真を見た時 ちくりと胸が痛んだ

私が中堂さんへの想いを 自覚し始めだ時期だった



『いらっしゃい』
「ふふ ただいま！」
『おかえり …お、お姉ちゃん…』
「えっ！うそ！やだうれしい！」


本当の貴方の妹になれたのなら 私はどんなに幸せだっただろうか

夕希子さんはその日

1冊の絵本を持ってきた


「一冊目が出せました〜!!」
『おめでとう！』
「それと…」
『んー？』
「系ちゃんと 結婚 します！」
『うっそ！ダブルでおめでとう!!』


にこにこして幸せの絶頂の夕希子さんを横目に絵本を読む


『この鳥さん 死んじゃったの？』
「そう それでね 綺麗なお花になるの」
『あぁ 鳥は木の実を食べることもあるし 体内で消化されない分が死 肉を養分に成長したのか…』
「えー！なんでそう理屈っぽく考えるかなぁ 系ちゃんみたい」
『違うの？』
「違うよ どんなに惨めで寂しい人生でも 暖かくて いい匂いがする場所で綺麗な花になれたら 幸せだと思わない？」


そう言って優しく笑った笑顔を鮮明に覚えてる


「幸せに してくれる？って」
『夕希子さん大胆！それでそれで？』
「なんにも言わずに１回大きく頷いたの」
『中堂さんらしいね』
「これからね 新居を探そうと思って！系ちゃんに秘密で」
『いいね 手伝うよ！バイクで送り迎えするから！』
「ありがとう！」


生きてる夕希子さんを最後に見たのは

日彰医大に運ばれてくる日の早朝

中堂さんと夕希子さんの家から

不動産会社までバイクの後ろに乗せて行った時


人は 声から忘れて行く

次に思い出 顔

最後まで覚えているのは匂い


夕希子さんと話した内容も 笑顔も泣き顔も匂いも覚えているのに

声だけが思い出せない


「それじゃぁいってきます」
『行ってらっしゃい』
「Aちゃんもお仕事頑張ってね」
『ちゃんと中堂さんが仕事するか見張ってるね』
「うん！」
『帰りは迎えに行くから連絡してね』
「大丈夫！歩ける距離だから！」


そう言って 夕希子さんは高瀬不動産に入っていった




運ばれてきた夕希子さんは冷たくて 固くて

雪が降る中 スクラップ置き場に捨てられていた

暖かくて いい匂いがする場所で綺麗な花になれなかった夕希子さん

夕希子さんが抜け落ちた空間を埋めるように

私と中堂さんの距離は近くなった

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