奏 (ページ10)

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9話ページ10

遠征明けの平日、学校は何も変わりもなく行かなくてはならない。勉強とボーダーのお仕事、どちらもこなすからこそのA級である。．．．のはずだ。

私のクラスには、私以外には誰もボーダー隊員はいない。不真面目にやる必要も、真面目にやる必要もあんまりない。ただそれとなく過ごしていればいいだけだ。

ああ、来たか。私は廊下にいる先輩に視線を剥けてLINEを送る。来いとのことだ。

「国近から、お前が心配だから様子を見て欲しいって言われたんだが．．．大丈夫そうだな。」

荒船さんだった。私は柚宇さんに心配されるような事をしていただろうか。身に覚えがない。

「身に覚えがないって顔してやがんな。はぁ．．．。」

そこまで言って荒船さんは、ため息をついた。
荒船さんは学年を超えて女子に人気がある。ていうか結構モテてる。

「お前昨日個人戦のブース行くって言っておきながらフラフラしてたんじゃねえか．．．全く俺は何分待たされたと思ってんだ。」

そういえばそうだった。でも荒船さんと約束したわけでもなければ、誰かと約束したわけでもない。

「だからって学校で言うことないじゃないですかー。」

周りには1年生女子の人だかりが出来てる。なんなら、なんの様子かと見てきた古寺や歌川までいる。

「別に私、荒船さんに約束もして無ければ、荒船さんに帰ってきたなんて言ってませんよねー。なんで知ってるんですか？」

「国近から聞いた。」

「でしょうね。」

あーめんどくせー。この見物人はほとんど荒船さん目的。元々根暗陰キャなんだから人だかりの中心にいさせるとかやめて欲しい。

妬みの音が声になって聞こえてくる。出来たら私だって教室戻って勉強してたいよ。まあこれが、ボーダー隊員の宿命である。

「あ、そうだそうだ。国近からこれを預かってる。」

「あ、．．．。」

そういえば、隊室に殆どの荷物を置きっぱなしにしていたのだった。てか、それ先に言えよ。

「じゃあ、俺は帰るからな。」

「．．．．．．ありがとう。」

私は去っていく背中に向かってボソッと言った。荒船さんは手を振るだけで声を出さなかった。彼なりの気遣いのつもりだろう。

あー、肩の力抜けた気がしてきた。あいつのせいだろうな。