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「あー…客来ねぇ…」
肘を立てて、頬を人差し指でトントンと叩く。
暖簾の奥は見る限り茶色い砂の道で、人がいる気配もない。
否、ないと言えば嘘になるのだが、あまりにも離れたところが盛り上がっている。
天人が地球に侵攻してから数十年が経ち、変に発展してしまった江戸の中心かぶき町。
しかし、かぶき町と一括りにするのも私自身は納得していない。
スナックやら花屋やらがある場所は良しとして、私がいるこの場所はどうだ。
人が来るのは二時間に一回、服を買っていくのは週に一回。
商売にもならないような私がここにいるのは、理由がある。
一つ、私が幕府公認の服屋だから。
幕府の人間の服を仕立てたり、真選組の隊服を繕ったりで幕府から惜しげもない謝礼が払われるため、特に働く必要が無い。
一つ、私が元攘夷志士であることを監視されているから。
若かりし頃攘夷戦争に参戦していた私を警戒して、幕府側は常に私を監視している。
更には金と職で丸め込んできたからここにいる。
とまぁ他にも細かいことは色々あるのだが、そんな感じの理由で私は人里離れたこの土地で服屋をしている。
巷では桂が真選組に追われているだの、銀時が万事屋の人を引連れて暴れているだの、高杉が反乱を起こしてるだの。
噂だけが耳に入ってくる。
あれ、ていうか辰馬は???
それもアイツららしいと笑ってしまう。
あの攘夷戦争が終わる頃、私は彼らの前から姿を消した。
もちろん本意ではなかったよ。
幕府の人間が私を連れ去った後、無駄に手先が器用な私を雇うと言い出したのだ。
どうせ、人件費削減のために安値かつ利用出来るからだろう。
こんなの桂や高杉が知ったら怒るんだろう。
もしかしたら殺されちゃったり…高杉なら有り得なくもない。
こんな所で幕府の下についてることがバレたら、アイツは迷わず私に斬り掛かるだろう。
今彼らはどんな格好で、どんな顔して過ごしているのだろうか。
まあでも、生きてるならそれでいいや。
テレビを付けてみれば、最近流行りのアイドルが歌っていた。
トーク内容はとんでもない下ネタだ。
しばらく見ていると、暖簾が揺れた。
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作者名:ことは | 作者ホームページ:
作成日時:2023年1月26日 1時