遠回り。 (ページ9)

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『こんにちは、今日は見学しにきてくれてありがとう！』

放課後。和泉と競技かるた部の部室を訪れると、意外と人がいて多少驚いた。もっと少ないと思っていたのに。

『競技かるたは難しいイメージがあると思うんだけど…』

３年生の花野菫先輩が、前に立って説明している。隣に立つ男子の先輩は、不気味なペ○ちゃん(←ママの味のあの子です)のような笑みで立っている。

『皆さんの中で、競技かるた経験者または段ありの人っていますか？』

花野先輩の問いに、私と和泉、それから3人くらいが手を挙げた。

『それじゃ、今手を挙げた人たちはこの筑波先輩について行って！それ以外の人は私が…』

ペ○ちゃん先輩は、こっちこっちと隣の教室に向かう。教室には札を並べた先輩方がいて、

『ルールは大丈夫だよね？んじゃ、かるたとってみようか』

ペ○ちゃん先輩が、その不気味な笑顔を一層濃くして新入生を座らせる。

「あの…えっと…よろしくお願いします？」

急なことで焦った私はとりあえず、目の前に座る男の先輩に挨拶をする。

『あはは…なんで疑問形？名前、教えてくれるかな。入部希望なら早く覚えたいし』
「あっ在原Aです。1年1組です」
『よろしくね…え？在原？』

急に笑顔を消した先輩は、パッと手を挙げた。

『筑波先輩、俺と変わってください！！』
『は？どうして？』

『だって…この子…在原Aって…あの、名人の弟子って有名な…』

近づいてきたペ○ちゃん先輩の足にすがりついて、最早泣きそうな先輩。

「あ、大丈夫ですよ。私、見てますし」

そう言って端にいようと立ち上がった腕を、ペ○ちゃん先輩に掴まれた。

『俺と、かるたやろう。そんでもって入部して』
「入部は元からそのつもりだったんで、もちろんです」

キツネ目を思いっきり開いて立ったままの先輩に、再び座って言う。

「何してるんですか。早くしましょう」
『ごめん、ちょっと嬉しすぎて…』

先輩はごめんごめんと何回か言ってから、そそくさと座った。
全員座ったのを確認して、CDプレーヤーから溢れてくる力強い音の波。

…五十嵐さんか。

｟難波津に咲くやこの花…｠

呼吸が止まるくらい張り詰めた空気の中で、私は短く息を吐いた。