プリン三昧のフーファン短編集 (ページ20)

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雨垂れの唄　プリン×オムライス 10 ページ20

10.
　昨日は酷い一日だった。
　自室の窓に視線を配り、プリンは安堵の溜め息を吐く。果てしない事務作業にも区切りが付き、正午にして漸く、休日らしい事のできる有意義な時間の出来上がりだ。休日らしい事、趣味と言える事なんて、自分は何一つ。
　否、園芸や読書以外は、心得ていないが。
　レストランの外。窓辺で戯れる小鳥の囀りが、往々と耳を通り抜ける。必要最低限の簡素な家具と、仕事資料や本をまとめた質素な棚のある室内に、外界の音だけが響き渡っていた。
　コルプス亭が、やけに静まり返っている。
　今日が休日である事は、昨日、召喚されたばかりの食霊にも話してある。
　そこは問題ないと見ていいだろう。
　御侍も昨日、食霊を召喚する手前の時間帯に、「休日、休日だ」と喜ばしげに、客間の壁へ並び貼られたレストラン予定表とカレンダーを眺めていた。
　二人とも、今日がどんな日であるかは正確に、適切に理解している。
　プリンの気掛かりは二人が居る、よりにもよって、あの二人の居るレストラン内が、こんなにも静かだなんて、何か裏があるような気がして、居ても立っても居られない事だった。
事務机と向き合った椅子を立ち上がり、経営面の計算や予定が丹念に綴られたノートを机上へ置き去りにして、急ぎ足で部屋を出る。
自分が寝て起きて、何か嫌な予感を感じたときは、だいたい悪い勘が当たっていた。
　前に暮らしていた場所でも、同じ事があった。
　寝て、覚めて。
　起きて見たとき、あの子は居なくなっていた。
　グレーの髪と青色の瞳の痩せ細った少女を真夜中の街道で探し歩いた記憶は、消えることがない。消える気がしない。
　照り輝く月の下で、プリンは少女が天使と呼ぶ存在に出会った。天使は、「自分は天使ではない」と否定したが、それでもプリンや少女の中で、彼女は天使と大差ない存在にまで登り詰めた。
　あのときは、悪い勘が幸福を齎してくれた。
　でも、今は。
「御侍様！」
　彼は叫んだ。契約を交わした、現在の主の名を。
　御侍は自分の部屋で、すやすやと幸せそうに寝息を立てて昼寝をしていた。
「うぅ、んん……。あ、れ……ぷりん～……？」
　寝惚けた柔軟な声音が耳へ届き、プリンはひと安心と肩を落とす。