第十九話 ページ19
「や、くすぐったいから……っ」
「俺はずっと我慢してたんだ。嫁入り前に無体を働いてはいけないと。いずれその日は来るのだから、焦るなと自分に言い聞かせて。でも、Aは俺が大事に大事にしてきたものを、簡単に他の男に差し出そうとする。……無防備過ぎる」
そのまま耳を食まれれば、ゾクゾクと背中を何かが駆け上がった。
咄嗟に指を口にあて、声が漏れるのを堪える。
「いっそ、このまま俺のものにしてしまおうか。どろどろに溶かして、男がどういう生き物か身体に教え込ませれば、少しは危機感も芽生えるのか?」
ようやく解放された耳が、空気に触れてひんやりとした。
欲にまみれた瞳に、ドキドキと胸が高鳴る。
このまま、どうなってしまうんだろう――そう思った時だった。
「Aちゃん?!居るの?居たら返事してーー!!?」
ドンドンと扉が叩かれて、私と炭治郎は動きを止める。
「甥が言ってた男の子は、本物の婚約者なのよね?不埒な輩じゃないわよね?!」
今まさに不埒な行為に及ぼうとしていた私達は、思わず顔を見合わせた。
おそらく、私達と別れた甥御さんが、心配して奥様に伝えてくれたんだろう。
「……知り合い?」
「私の雇い主の奥様」
「なら挨拶しないとな」
先程の空気は何処へやら、すっかりいつもの誠実で優しくて責任感の強い炭治郎になって、彼は扉の方に向かう。
離れた身体に、ほっとする気持ちと残念な気持ちがないまぜになり、小さく息を吐いたところで、「あ、そうだ」と炭治郎が振り返った。
「今後、一切、Aを逃がすつもりはないからな。もう、我慢もしない。覚悟してろよ」
赤みがかったその瞳が、うっそりと細められる。
その妖艶な笑みに、私はまるで胸を掴まれたように、ぎゅ、と胸元の布を握りしめるのだった。
(END)
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青野ゆあん(プロフ) - 尊い…//ヤバい…//なんかしっくり来る… (2021年10月4日 22時) (レス) @page23 id: a96dc153b8 (このIDを非表示/違反報告)
都和(プロフ) - とんでもねえ炭治郎だ…// (2021年3月31日 18時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
夢 - とても良いお話でした。 キュンキュンしました。 (2021年1月20日 15時) (レス) id: be9c31a95d (このIDを非表示/違反報告)
まるた(プロフ) - 楓さん» 癒されましたか…!ヾ(●´∇`●)ノきゅんきゅんしていただけて本当に嬉しいです(*´ω`*)伝えてくださってありがとうございます! (2021年1月12日 20時) (レス) id: cd00dc408e (このIDを非表示/違反報告)
楓 - テンポよくとても読みやすかったです。炭治郎に大切に想われていて、きゅんきゅんしました。とても癒されました。 (2021年1月10日 20時) (レス) id: d75e1d7ff0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まるた | 作成日時:2021年1月5日 22時