九話 感謝の後に迷子 ページ10
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シャツに砂色のベスト、黒のズボン、編上靴。腰には鞄。鞄の中には財布と手紙と砂時計があと幾つか。
髪は三つ編みに結った。
腹に手を当てて確かめる。治ったものだ。
側に立っていたエリスと森さん、中也さんに頭を下げた。
『お世話になりました。見ず知らずの私を助けてくださりありがとうございました。
エリス、遊んでくれてありがとう』
「また遊びましょ!」
『うん。森さん、治療から何までありがとうございます』
「エリスちゃんと遊んでくれて感謝してるよ。それに中也君も君のこと気に入っているみたいだから、また来るといい」
「首領!?」
『うわぁ、嬉しいな。また来ます』
森さんに勢いよく振り向く中也さんを見ながらそう云うと、中也さんは視線に気づき、ふいっと目を逸らした。
こういう人って揶揄いたくなるよね。
私はほぼ同じ身長のその体に抱きつき、首に腕を回した。
「は!?」
「Aったら大胆ね」
『中也さんみたいな優しい人に出会えて良かった。私を助けてくれてありがとう』
真っ赤な顔をしながら、おう、なんて呟くものだから笑ってしまった。
ポートマフィアの拠点。
何処か闇を抱えているようで、理解もできるそんな不思議な処だった。
三人に手を振り、私は弟の元へと足を進めたのだ。
迷子になんてなっていない。
此処が何処だか判っていないだけで。其れは迷子だとは云わない。
ふと目に入った喫茶店で休憩にするとしよう。
中に入るといい雰囲気の店内だった。私こういうの好きだ。
『珈琲一つ、お願いしまーす』
「お客様、初めていらっしゃいました?」
『そうですそうです!ここ、とってもいい雰囲気ですね』
「まあ、ありがとうございます。ヨコハマには用事が?」
出された珈琲に角砂糖を二つ入れながら、女給さんに頷き返した。
『私、弟が居るんです。弟を置いて施設を出た後、弟が施設を追い出されたと聞いて。近所の人から情報を得て、ここら辺に住んでいるかもしれない、ということまでは解ったのですが』
「正確な場所が解らないんですね」
『そうなんです。髪は白っぽくて、身長は170くらいで、少し弱そうな見た目の年が18の男です。知りませんか?』
私より高い位置に手を上げ、身振り手振りで説明していると、女給さんは考え込むような姿を見せ、少し目を見開いた。
判ったのかな?
「もしかしたら、武装探偵社の人かもしれません。もうそろそろ此処に来る時間なので待ってみますか?」
もし、会えるのなら。
私は頷いた。
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早夜(プロフ) - わにゆずさん» ありがとうございます!忙しくて放置していたら、もうすぐ1ヶ月経ってしまうところでした。近々更新しようと思ってるので待っててください!! (7月2日 11時) (レス) id: f5ec9a9fb0 (このIDを非表示/違反報告)
わにゆず(プロフ) - がんばってください! (6月13日 21時) (レス) @page21 id: b8157db853 (このIDを非表示/違反報告)
志希 - めっちゃ面白いです!!!更新待ってます!頑張ってください!! (2023年3月16日 19時) (レス) @page14 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:早夜 | 作成日時:2023年3月8日 17時