エンドラインの向こう側

ー ページ18

"ファーストタッチ……してやられたよ。
少しでもコートに隙を見せてしまったが最後、気付けばボールがコートに落ちてた。
ツーを警戒してブロックも振られるし、テンポも狂わされた。まさか…セッターが囮になるなんて驚きだよ。"
試合後、対戦国の監督もお手上げの様相を浮かべた。

周囲からのプレッシャーも跳ね除け、
セッターとしての初戦にフルで出場し、見事勝利をおさめた結城の事を、世界のバレー関係者は"勝負師"や"風雲児"、"ダークホース"と絶賛した。

「本当に、周りに恵まれてるなと改めて実感しました。
課題の方が圧倒的に多いので、もっと努力しないといけないなと思いました。」

それでも彼女は謙虚で、貪欲だった。







"勝負師"と呼ばれる片鱗を、彼女はバレーを始める前から伺わせていた。
これは、結城がバスケットボール全国初優勝を決めた決勝戦の貴重な試合映像だ。

ーVTRー

司令塔的ポジションのPG(ポイントガード)であった結城がボールを手にし、一発目の攻撃(オフェンス)。
相手DF(ディフェンス)と対峙した結城は半歩下がり、絶妙な間合いを取った後、見事にロングスリーポイントを決めた。
DFはその強烈な一本のイメージを払拭出来ず、3ポイントを警戒し距離を保てばパスやドリブルにしてやられ、ドリブルを警戒し距離を取れば結城の3ポイントの餌食となった。









ハーフタイムの僅かな時間。
何気ない取材の中で、我々は彼女の驚異的な能力を知る事になる。

"前半戦、何か活かせそうなプレーはありました？"

「24分、シャルケ10番から対角4番へのロングバックパスですね。あの角度と速さなら相手DFの視界からフッとボールが消えて見えただろうし、見事に守備の統率を崩してたので。
ゴールには繋がらなかったし、27分のロングパスの方が凄かったからあまり目立たないけど。」

"……凄い、よく見てますね。
今までのプレーで、ここはこれを参考にしたっていうのありますか？"

「去年の世界選手権VSドミニカとの試合の、第2セット23-22の時のバックアタックですね。
あれは一昨年見たユヴェントスVSパルマ戦後半37分で見た身体のフェイントを参考にしました。」

"え、ちょっと待って……それ全部覚えてるの？"

「はい。」

思わずスタッフも敬語を忘れた。
聞けば彼女は、選手の配置は勿論の事、目で見た試合の流れを丸々記憶していた。
あの将棋界の"伝説" 羽生善治と同じ
"直観像記憶の能力"だ。

ー→←ー

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す