さぁ…みんなで…〝コロシアイ〟しましょう？ー第二章ー (ページ4)

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幽霊　和泉直哉ページ4

そんな後ずさる男に合わせるように、諏訪部は男のもとに足を踏み出す。男は諏訪部に合わせるようにまたもや一歩、二歩と後ずさった。

だが、直ぐに諏訪部が目の前まで迫る。逃げきれなかったことに、男は震えた。

――なんだろうか、この恐怖は。コロシアイを開始すると云われた時とは違う怖さだ。此奴に纏う雰囲気が怖い。死を何とも思ってなさそうな。全てを見透かしてしまいそうな――……

諏訪部はにこりと笑う。

「右」

その時だ。
血煙が上がった。命を切り裂く音がする。首から血がどくどくと溢れ出る。
男は目を見開いた。
そして己の失敗を悟った。

諏訪部の黒い外套が何者かによる人工的な風を受け柔らかく膨らんだ。

それを横目に、どさり。絶命してしまえば躰はなんの役にもたたない。男の躰が、地面に触れた。
小池を作る真っ赤な血。血だまりに浮かぶ一つの死体。

「あーあ……ダメだよぅ。逃げ出すなんて。
あ！みんなにも忠告しておこう！抜け出そうとなんかしちゃえば、今みたいに殺し屋に殺されちゃうからね！」キャハハ！楽し気に狂った笑い声をあげる天月。男の屍を静かに眺める諏訪部。
「きゃあああああああああ！」何処からか、恐怖による悲鳴が上げられた。

諏訪部は一人、何処か興味なさげに白雪姫を見ていた。

.
和泉視点

「――“コロシアイ”をしてもらうよ！」

真昼間、物騒なことがフロア一面に反響した。嗚呼、この時が来たのだと心底思う。
「コロシアイ」の言葉を聞いたとき、矢張り諏訪部を止めるべきだったと己を責め立てた。だがしかし、幽霊となったこの身では何が出来るのだろうか。

隣の諏訪部を見た。興味なさげに「詰まらない」と呟く諏訪部。「そうか？」俺は返した。
諏訪部は、また本棚に手を伸ばした。本が定まらないようで手をゆらゆらと動かしていたのだが一つのところに留まった。

人間失格だ。俺が生前読んでいた本。
すると、諏訪部は本を手に取り少しだけ嬉し気に口角を上げた。
何が面白いのだろうか。

「……和泉くん、元気かなぁ」

定めるような手つきで表紙を撫でた。

「俺は元気だぞ」諏訪部に云った。
諏訪部は何も云わなかった。俺は次の言葉を待つ。
やがて、諏訪部は顔を綻ばせた。

「野暮なことを云ったね。君はいつも通り、元気にあっちでも煙草を吸っているんだろう？」諏訪部は本を元の場所に戻した。
「その通りだ」俺は云った。「そうか」いつもの、優し気で腹が読めぬ声色だった。