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「お嬢さん、どこに行くんだ?そんなに慌てて、素敵な花束持って」

 お店を飛び出してすぐ、聞きなれた意地悪な声が私を呼び止める。

「用があるのは、もしかして俺?」

 振り向いた私は路上なのも忘れて、声の主に抱きついた。私と同じで、素直じゃなくて意気地がなくて、でも最高のサプライズをしてくれた、仲の良いただの友達に。

「ヤン!」
「A……」

 ああ、知らなかった。ヤンはこんな愛しそうに私の名前を呼べたのか。こんなに広い胸で、こんなに大きな手で、私を抱き締めるのか。

「先に行ったんじゃなかったの?」
「Aが出てくるのを待ってた」
「もう、馬鹿、寒いのに」
「それで、返事は?」
「カードの?」
「ああ。聞きたい、今すぐ」
「せっかちね」
「仕方ないだろ、緊張と不安で今にも死にそうなんだよ。もし、俺ばっかり好きだったらどうしようって」

 私を見つめるヤンの瞳は、もう半世紀は生きているはずなのに少年のように瑞々しく、不安定に揺れていた。ヤンもまた、臆病な恋をしていたのだ。もうそれだけで、胸がいっぱいになった。

「ヤン。返事は、これでいい?」

 私は手を伸ばしてヤンの冷たくなった頬を優しく撫でると、薔薇を抱えたまま背伸びをして短いキスをした。

「!」

 ヤンは瞬時に耳まで真っ赤になり、その後嬉しさを隠しきれないみたいに破面して、さっきよりも強く私を抱き締めた。私は恋の成就の喜びに心を震わせながら、目を閉じる。2人の間に挟まれた薔薇の花束の香りが芳しい。

「A……」

 チョコレートよりもうんと甘い予感。ヤンの唇が、そっと降りてくる気配がした。


end

いまは、まだ(トール)→←・



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ムスメ3(プロフ) - トール優しすぎるってばよ (2月18日 21時) (レス) id: fcb0ec653e (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - ムスメ3さん» あたたかいコメントありがとうございます!いつもとても励みになっています。また是非遊びに来て下さい(^^) (2月14日 17時) (レス) id: b1708db406 (このIDを非表示/違反報告)
ムスメ3(プロフ) - お返事ありがとうございます!あなたの作品が見れるなら幾らだって待てますとも!! (2月14日 1時) (レス) id: fcb0ec653e (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - ムスメ3さん» こんばんは、ムスメ3さん。いつもありがとうございます!他にバレンタイン話は書いていなくて……遅筆なもので申し訳ないです。お待たせするとは思いますが、ガンナーにもまだ沼っているのでお話を増やす予定です。是非楽しみにお待ち下さいませ! (2月14日 0時) (レス) id: b1708db406 (このIDを非表示/違反報告)
ムスメ3(プロフ) - あ〜まじ最高 、ガンナーのバレンタイン話とかってありますかね?|ω・` ) (2月13日 19時) (レス) @page4 id: fcb0ec653e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:るう | 作成日時:2024年2月12日 23時

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