辞職の話・二 ページ7
「そんな、中也さんにご面倒をおかけする訳には……」
僕は慌てて断った。いくら何でも話がうま過ぎる。
「じゃどうするつもりなんだ、行くあてはねえンだろ」それを云われるとぐうの音も出なかった。確かに『何とかなる』とは云ったものの、どうすれば善いのか……
「だろ?」
「……はい……」
僕は俯くしかなかった。
「それに、大人気アイドルさまが街をうろちょろしたら囲まれるぞ」
その通りだ。変装するためのものは全て、家に置いてきてしまった。
「いざって時に頼れる奴もいねえ」
僕にはあまり横浜での人脈がない。
「金も、な」
自由に使える金さえないのだ。このままでは……
「野垂れ死に、って訳だ」
貴方の言葉は厳しいものだった。しかしそれらは全て事実で、僕には反論しようもない。
「判るだろ?今は俺に頼っとけ」
「で、でも」
その申し出はとてもありがたい。けれど、どうしても気になることがあるのだ。「どうして、」僕は思いきって顔を上げる。
「どうして僕に……そんなに優しくしてくれるんですか」
不思議だった。人はこんなにも、見ず知らずの他人に対して優しくなれるものなのだろうか。何かきっと、理由があるんじゃないか。
「そうしなけりゃ、って思ったからだ」
今度は彼が語る番だった。彼は仕事柄、行き場を無くした子供たちを善く知っていると云う。そして、この街の闇がどんなものであるのかも。
何のお仕事を?聞くとはぐらかされた。
「手前に逢ったとき、助けてやらなけりゃ、って思った。だから助けた。それじゃだめか?」
だめ……なんかじゃない。むしろ嬉しかった。
「じゃあ、こうするか。俺は仕事が忙しくて、なかなか家事ができねえ。手前を家にいさせる代わりに、手前は家事をする。これでどうだ?」
願ってもない言葉だった。無償では気が引けるけれど、貴方に利益があるというなら……
「……判りました。よろしくお願いします」
「契約成立、だな」
貴方は歯を見せて笑う。その笑顔に、嬉しくなったのは何故なのだろう。
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こんぺいとうくん(プロフ) - コミュ障の極みさん» ありがとうございます〜!!頑張ります!DA、中也さん格好良過ぎでした… (2018年3月16日 21時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
コミュ障の極み - デッドアップル観れなかったァァ!あと面白いです!更新ファイトです! (2018年3月15日 18時) (レス) id: 0c405ae39e (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとうくん(プロフ) - 真昼さん» あ、あ、ありがとうございます…!(コミュ障)すごい嬉しいです…頑張ります!! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - すごい面白いです、頑張ってください! (2018年3月9日 23時) (レス) id: 85666cc382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとうくん | 作成日時:2018年1月29日 17時