思わぬ仕事・三 ページ34
「これって−−」聞こえてくる歌は、確かに僕の−−特に気に入っているものだった。全てを失った少年が、迷い、あがき、傷つきながらも、それでも仲間を信じて立ち上がる。そんな歌だ。
「Qが……歌っているのか?」
芥川くんの声が控え目に響く。動揺−−とまではいかないものの、驚いているようで。
僕はと云えば−−唐突に自信が出てきたところだった。
「A殿……!?」
芥川くんの制止も耳に入らなかった。声のする方へ−−単純かもしれないけれど、思うのだ。「歌が好きな人に、悪い奴はいない」……と。
無論、まだ彼(彼女か?)が歌が好きと決まった訳ではない。だから僕は、ゆっくりと近づいて−−そっと声をかけた。歌が終わるのを待ってから−−「歌、上手だね」
「……? おにいさん、誰?」
「僕?僕は」少し迷った。けれど、云ってしまうことにした。「【Frida】だよ」
久作少年の顔が輝いていく−−こんな牢の中にいる少年にも名が知られていることを嬉しく思う反面、やっぱり残酷だ、と思った。子供が、こんなところに一人だなんて。
「本当に?本当に【Frida】なの?」
「うん。良かったらお話しない?僕、入っても良いかな」
早速鍵を開ける。「さっき、僕の歌を歌ってくれていたよね」音程もしっかりしていたし、まだ十三にしては感情も込められている。ひょっとしたら、僕より上手かもしれないよ。そう伝えると、彼は屈託なく笑った。だけど、そのあと直ぐに暗い笑顔を見せる。
「だって、……他にすることがないんだもの」
デリカシーがなかったかもしれない−−、確かに部屋の中には、古ぼけた玩具の類や旧式のラヂオ−−これで歌を聴いていたという−−、ちょっと不気味な人形、それくらいしかなかった。
だけれど、それを退屈でなくさせるのが僕の仕事だ。倦んだ少年の相手をすることなんて、何局ものラヂオで同じことを云い続けるよりも簡単だ。実際にやったから知っている。
「ねえ」だから僕は、静かに語りかけた。「君さえ良ければ−−毎日でもここに来るよ」
「ほんと!?【Frida】、僕と遊んでくれるの!?」
「うん、もちろん。歌が好きな子は皆友達だからね……ああ、でも」
少し、気障過ぎたかも。中也さんの口調がうつったのだろう。
「僕はA。−−ポートマフィアの構成員で、中也さんの部下だ」
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こんぺいとうくん(プロフ) - コミュ障の極みさん» ありがとうございます〜!!頑張ります!DA、中也さん格好良過ぎでした… (2018年3月16日 21時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
コミュ障の極み - デッドアップル観れなかったァァ!あと面白いです!更新ファイトです! (2018年3月15日 18時) (レス) id: 0c405ae39e (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとうくん(プロフ) - 真昼さん» あ、あ、ありがとうございます…!(コミュ障)すごい嬉しいです…頑張ります!! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - すごい面白いです、頑張ってください! (2018年3月9日 23時) (レス) id: 85666cc382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとうくん | 作成日時:2018年1月29日 17時