僕たちの約束 ページ28
「……おい」
中也さんが握るハンドルが細かく動く。横浜のハイウェイを走っている。「はい−−」僕は返事をしたけれど、振り向かなかった。想像したより疲れた声が出た。
叱責を受けるのだろう。そう思った。
「……なあ、彼奴のことを何処まで知ってる？」
予想外の質問に、僕は首を傾げた。そんなこと？僕は彼奴のことを少ししか知らない。
「武装探偵社の人、ということしか−−」
「それだけか」
頷いた。
「じゃあ、お前に大事なことを教えねえとな」
「大事なこと……」
「彼奴には異能が効かねえ」
思わず息を飲んだ。「正確には、彼奴の触れた奴の異能は無効果される」そうか−−だから、『水妖記』がかき消されたのだ。
「しかし−−厄介だな」中也さんは顎に指を当てて考え込んだ。「探偵社が奪還に向けて動いている−−その上、異能を知られたかもしれねえ……」
車窓に、一つ線が引かれる。雨だった。
「首領に云おう」中也さんは顔を上げて云った。「しばらくはお前をエリス嬢のところに居させてもらおう」
「僕は−−お荷物と、そういうことでしょうか」雨が次第に勢いを増して行く。僕は無力感に苛まれる。「僕だってマフィアです。次こそは、異能がなくても−−」
「本当か？」
中也さんは僕を遮った。車内に沈黙が訪れる。
疑われているのか−−「僕、組織を裏切ったりなんか、」
「違う。−−お前、彼奴を傷つけるのを躊躇しただろ」
「そ−−れは、」間違いではなかった。確かに僕は、あの包帯の巻かれた白い頸を傷つけることを躊躇った。
「怖かったな」
それは、予想外の言葉だった。敵組織の人間に情けをかけるなんて−−と、制裁を下されても仕方がないと思っていたのだが。
いつの間にか車は普通道路に降りている。中也さんは僕の頭を撫で、片手でそっと抱き寄せた。
「お前はもう、帰りたくねえンだろ？一度懐に入れた奴を俺は見捨てねえ。約束したもんな、」
俺が守るって。
中也さんの手はとても暖かい。幼子が母と手を繋ぐような安心感が、そこにはあった。「−−な、だから泣き止め」
僕は泣いていた。中也さんの指が穏やかに涙を拭う。中也さんといると、僕は泣いてばかりなのだ。中也さんがあまりにも優しいから。中也さんがあまりにも、僕の知らなかったものをくれるから。
「絶対にお前を守ってみせる」その言葉は、回された腕と同じくらい力強かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 131人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こんぺいとうくん(プロフ) - コミュ障の極みさん» ありがとうございます〜！！頑張ります！DA、中也さん格好良過ぎでした… (2018年3月16日 21時) (
レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
コミュ障の極み - デッドアップル観れなかったァァ！あと面白いです！更新ファイトです！ (2018年3月15日 18時) (レス) id: 0c405ae39e (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとうくん(プロフ) - 真昼さん» あ、あ、ありがとうございます…！（コミュ障）すごい嬉しいです…頑張ります！！ (2018年3月10日 15時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - すごい面白いです、頑張ってください！ (2018年3月9日 23時) (レス) id: 85666cc382 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こんぺいとうくん | 作成日時：2018年1月29日 17時
