新たな職・三 ページ16
「異能力『水妖記』−−それがお前の能力だ」
水妖。
昔、そんな本を読んだことがあった。水に住む妖怪の話。その妖怪は美しい声を持つが、その声で人を惑わせ、そのせいで愛する者を失ってしまうのだ。その名は確か−−
そこで僕は、自らの異名を思い出した。奇跡の歌声だの神から与えられた声だの云われたけれども、脳裡に刻まれて残っている、
「悪魔の歌……」
「心当たりがあったみたいだな」中也さんは僕と目を合わせた。深い藍色の瞳。「歌を媒介に精神を操作する異能なんて、珍しいったらありゃしねえ」
諭すような声色だった。場違いにも安心する。
「知ってるか。精神操作の異能は異端で、おまけに珍しいンだ−−どんな異能組織もお前を狙っている」
僕は思わず身を震わせた。中也さんのような強力な異能者に襲われれば、僕などひとたまりもないだろう。
「だろ、」中也さんの手が伸び、僕の肩に触れる。「マフィアに入れ、そうしたら、」
「俺が守ってやれるから」
顔を上げる。視線がかち合う。中也さんの目は真剣で。
「マフィアに法なんて物は通用しねえ。ここにいれば軍警にも異能組織にも、捕まることはない。俺は部下は大切にする主義だからな」
安心させるように−−子供をあやすように−−中也さんは僕を抱きしめた。
マフィアに入りたい、そう思った。
母親にすら愛してもらえなかった僕を、こんなにも真剣に『守る』なんて云ってくれた人がいただろうか。
この恩を返したかった。−−優しさに、応えたい。
「僕……やります」
一度目を閉じて、ゆっくりと開けた。
僕の眼前に伸びる道は、闇のただ中とは思えないほどに光り輝いていた。
「僕……、マフィアになります−−貴方の役に立ちたい」
そう答えると、中也さんは腕の力を強くした。
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こんぺいとうくん(プロフ) - コミュ障の極みさん» ありがとうございます〜!!頑張ります!DA、中也さん格好良過ぎでした… (2018年3月16日 21時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
コミュ障の極み - デッドアップル観れなかったァァ!あと面白いです!更新ファイトです! (2018年3月15日 18時) (レス) id: 0c405ae39e (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとうくん(プロフ) - 真昼さん» あ、あ、ありがとうございます…!(コミュ障)すごい嬉しいです…頑張ります!! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - すごい面白いです、頑張ってください! (2018年3月9日 23時) (レス) id: 85666cc382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとうくん | 作成日時:2018年1月29日 17時