既知の話・四 ページ12
「あのように美味いものを口にしたのは、生まれて初めてだった……、感謝する」
芥川くんは深々と頭を下げる。
そう云われると、確かにそんなことはあった。だから、芥川くんは何一つ間違っちゃいない。
一方僕はそれを覚えていなかった訳で。それに、あげたのは何処にでもあるような普通のジュースだ。
「えっと……」
忘れてごめんね、もあんまりな気がする。気にするなと云っても彼はきかないだろうし。『ぐう』本当に、何と答えれば……
……ぐう?
僕の思考の中に挟まれた不自然な音。それは多分……
僕は芥川くんを見た。
「お腹減ってるの?」僕は訊いた。
芥川くんはうつむいた。
「OK、座って」僕は笑いながら云った。覚えていなかったことは、これでチャラにしてもらおう。
「いや、僕はこれで」
「予定がないなら食べて行きなよ」
同僚に奢るくらい中也さんだってするだろう。「ね、」キッチンから笑いかけると、観念したのか、芥川くんは大人しく座った。
その日僕が作ったのはただの野菜炒めだったけれど、芥川くんはとても美味しいと食べてくれた。
美味しいと云ってくれる人がいるのは幸せだ。何も云わず感謝もない家族に作るより、反応がある人に作る方が善いに決まっている。
「……その、」
「ん?何?」
「……おかわりは、あるだろうか……」
もちろん、と応えてご飯をついでやりながら、僕はそう云えばと思い至る。
「僕はA、よろしくね」
「……龍之介だ。芥川、龍之介」
−−帰ってきた中也さんにこの話をしたら、ものすごく驚かれた。
131人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こんぺいとうくん(プロフ) - コミュ障の極みさん» ありがとうございます〜!!頑張ります!DA、中也さん格好良過ぎでした… (2018年3月16日 21時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
コミュ障の極み - デッドアップル観れなかったァァ!あと面白いです!更新ファイトです! (2018年3月15日 18時) (レス) id: 0c405ae39e (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとうくん(プロフ) - 真昼さん» あ、あ、ありがとうございます…!(コミュ障)すごい嬉しいです…頑張ります!! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - すごい面白いです、頑張ってください! (2018年3月9日 23時) (レス) id: 85666cc382 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こんぺいとうくん | 作成日時:2018年1月29日 17時