九十五 ページ6
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銃声を頼りに、廊下を駆ける。
刀を構え、勢いよく部屋の中に飛び込めば、
「真選組だ!!お縄につ」
「おっと…先客がいたんですねぃ」
思わず言葉が詰まる。
銃を持つ女とその奥でしゃがみ込む女。
Aの腕からは痛々しい液体が流れている。
「ラッキー。手間が省けた」
女は嬉しそうに笑い、銃口を沖田に向けた。
刀と拳銃では、明らかに不利な方は分かる。
「土方さん、ここは一時撤退です」
犯人を確実に捕まえるためだ。
沖田と顔を見合わせ、またここに集合しようと視線だけで伝え合って、二人分かれて部屋から出て行く。
後ろをちらりと見れば、女は携帯電話を触っている。
そして、こちらにゆっくりと歩き出す。
「さあて。鬼ごっこでも始めましょうか」
余裕そうな笑みを浮かべて、沖田が去っていた方向に向かっていった。
通り過ぎたのを確認して、カメラの死角に入るように先程の道を辿る。
扉を開ければ、Aは驚いた顔をこちらを見た。
「どうして戻ってきたんですか。というか、カメラが私達の居場所を映して」
早口になる彼女の口を手で覆う。
唇に人差し指を当て、黙るよう促した。
そして、Aはそのままの場所に残し、土方だけは死角に移動する。
『音声を撮られている可能性がある。
今から携帯の画面を見せる。
イエスは床に拳を一つ、ノーは拳を二つだ』
走り書きしたメモを見せれば、Aは床をニ回叩いた。
傷が痛むのか、時折歪んだ顔になる。
彼女は空いた手で携帯電話を触り、画面を見せる。
『嫌です。
土方さんは沖田さんを追って下さい。
私なんかより先に犯人を捕まえるのが先でしょう。
私なら大丈夫です」
全てを読み終わりAの顔を見れば、彼女はゆっくりと頷いた。
想いを寄せた女が怪我を負っているというのに、置いて行くような男はいないだろう。
それに、ただすぐに治せるような怪我をしているのではない。
そんな状況だというのに、Aは自分よりも仕事の方を優先しているのだ。
(こいつ…本当に馬鹿だ)
立ち上がり、Aを見下ろす。
そして剣先をカメラのレンズに突っ込んだ。
ぱらぱらと硝子の破片が落ちて行く。
「狙いは俺達だ。お前に怪我をさせた失態は俺が償う。
それまで、
生きて待ってろ、A。
必ず迎えに来る」
彼女の瞳をじっと見て、その場を立ち去った。
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Nattu(プロフ) - ももさん» すみませんお返事遅くなりました;;レスありがとうございます嬉しい;;ゆっくりではありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。引き続き読んでいただき誠にありがとうございます。* (2022年9月9日 0時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - こちらこそ、返信ありがとうございます!早速読まさせていただきます。再開おめでとうございます!!! (2022年9月4日 0時) (レス) @page27 id: 295133b60c (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - ももさん» 初めまして!コメントありがとうございます!いつも更新を楽しみに…なんて凄く嬉しいお言葉ありがとうございます;;嬉しい〜;;また再開したので遊びに来てくださいいい!ももさんに出会えることを楽しみにしています* (2022年9月2日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - 慎さん» 慎さ〜ん!またコメントくれて本当に嬉しいです;;また再開致しましたのでお付き合いいただけたらと存じます。慎さんとまた会えて嬉しいです;; (2022年9月2日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - 初コメ失礼します。本編では大変楽しく読まさせていただき、いつも更新を心待ちにしていました!また、短編を作り始められましたら、ぜひ読みたいです! (2022年8月30日 0時) (レス) @page27 id: 295133b60c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年5月30日 19時