百三 ページ14
.
もう日が落ちようとしていた。
面会時間終了時間も迫っている。
橙色に染まった廊下を歩き、壁にあるネームプレートを見る。
(来ちまったな)
こんこんとノックをするも返事はない。
ナースステーションに立ち寄り尋ねれば、看護師は渋い顔をした。
「Aさん、また…」
彼女の言われるまま着いていくと、開けた場所に着く。
Aは運動着のまま、外を見つめていた。
看護師に呼ばれ、振り返って土方を見た。
「Aさん、お客さんですよ。…というか、またここにいらしたんですね。無理はしちゃ駄目って言ったでしょ?」
「無理なんてしてませんよ。まだまだ元気です」
そう言って、歯を見せて笑う。
看護婦は溜息をついて、ごゆっくりと言って出ていった。
部屋に二人きりで残される。
空が綺麗な橙色に染まり、心なしかAが寂しげに見えた。
その手には長い棒。
まるで、竹刀を交わしたあの時みたいだ。
「…まだ、痛むか」
そう尋ねれば、苦しそうに眉間に皺を寄せた。
「痛くない…と言ったら、嘘になります。
利き手じゃないだけ、食べたり書いたりする分には困らないんですけどね」
「…剣は、片手じゃ、心もとないよな」
そう核心をつけば、さらにAの表情は歪む。
「今日の土方さん、意地悪ですね」
そして、くるりと背を向けた。
胡座をかいて座り、利き手で痛む腕に触れる。
(俺のせいだ)
胸がぎゅっと潰されたように息が詰まる。
彼女にゆっくり近づき、隣に座る。
顔を覗き込めば、白い頬に涙が伝っていた。
それを見られたことに気がついて、慌てて拭いて愛想笑い。
「すみません。もう、泣きません。
もう真選組に入ってだいぶ経つってのに泣いてるなんて、女々しいなあ、わた」
「申し訳なかった」
話を封じるようにして、声を張り上げた。
Aは濡れた目を丸くして、こちらを見ていた。
何故謝っているんだ、とその瞳は言っている。
「Aがこうなったのは、過去の俺の判断が甘かったからだ。
お前が苦しんでいるのを見て、のうのうと仕事としてられねえよ」
「私が勝手にしたことであって」
傷ついたその掌に優しく触れて、
「女に傷なんてもっての外だ。
必要なのはこの手に触れる大切なもんだけだ」
素直に思いを伝えれば伝える程に、鼓動が早くなった。
.
163人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Nattu(プロフ) - ももさん» すみませんお返事遅くなりました;;レスありがとうございます嬉しい;;ゆっくりではありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。引き続き読んでいただき誠にありがとうございます。* (2022年9月9日 0時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - こちらこそ、返信ありがとうございます!早速読まさせていただきます。再開おめでとうございます!!! (2022年9月4日 0時) (レス) @page27 id: 295133b60c (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - ももさん» 初めまして!コメントありがとうございます!いつも更新を楽しみに…なんて凄く嬉しいお言葉ありがとうございます;;嬉しい〜;;また再開したので遊びに来てくださいいい!ももさんに出会えることを楽しみにしています* (2022年9月2日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
Nattu(プロフ) - 慎さん» 慎さ〜ん!またコメントくれて本当に嬉しいです;;また再開致しましたのでお付き合いいただけたらと存じます。慎さんとまた会えて嬉しいです;; (2022年9月2日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - 初コメ失礼します。本編では大変楽しく読まさせていただき、いつも更新を心待ちにしていました!また、短編を作り始められましたら、ぜひ読みたいです! (2022年8月30日 0時) (レス) @page27 id: 295133b60c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Nattu | 作成日時:2022年5月30日 19時