30話 ページ30
「交通事故だったらしいわよ」
「やーね、子供達もまだ幼いのに」
岸のお父さんはあの日帰ってこなかった。信号無視をした車に轢かれそうになった男の子を助けたそうだ。事故現場近くには俺らに持って帰ってくる予定だったであろう、大きな望遠鏡が転がっていたらしい。
最後の最後まで優しすぎた人だ。自分の命を犠牲にしてまで、人を助ける。俺には絶対にできない。
「優ちゃん、ジンくん。外にある自動販売機でジュース買ってきてくれる？」
「え、でも、、」
「お願い、実優が飲みたいって」
「、、行こう、キティ。」
「え、待ってよ、ジン。」
渋る岸を連れて葬式場の横にあるジュースを買いに行った。岸のお母さんの顔には疲労の色が浮かんでいた。そりゃそうだろう。自分の夫のことを可哀想やら、色々と言われたのだから。
「ほら、キティ。何がいいの？」
「、、」
「もう、早く選んでよ。選ばないんだったら俺が勝手に選ぶよ？」
「、、、ジンは悲しくねぇのかよ、、」
「え、、？」
「なんでそんなに普通でいられるんだよ」
「いや、そりゃ悲しいよ」
「じゃあ、なんで泣かないんだよ」
だって俺と岸たちは赤の他人だから。そう言おうとしてぐっと堪える。いくらなんでもそれは酷すぎる。今まで沢山可愛がってもらったというのに。
「キティのためだよ。俺まで泣いちゃったらキティが泣けないだろ？キティがちゃんと泣けるように俺は泣かないんだよ」
今思うとなんという綺麗事なんだろう。でも俺まで泣いてしまったら絶対に岸は泣かないと思った。岸のお父さんと一緒で優しすぎる人だから。
「、、っじゃあ、ジンの前だったら泣いていい？」
「、、いいよ。気が済むまで泣きなよ」
「、、うﾞぁﾞぁﾞぁﾞぁﾞ！ﾋｯｸ､おどうざんと一緒に遊びかった！もっと、一緒にいたかった！」
「うん、うん。一緒にもっといたかったね」
「ﾋｯｸ､ｳｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞ！」
真夜中の住宅街に岸の泣き声が響いた。俺は泣き叫ぶ岸を優しく優しく撫で続けた。
「あ、ほら、キティ。今夜は月が綺麗だよ」
「ｸﾞｽ、え？」
月は眩しすぎるほど輝いていた。その月は優しくいつも明るかった岸のお父さんのように見えた。
もう泣かないで、そう言っているような気がしたのは俺だけじゃない。
いつの間にか岸も泣き止み、月を見上げていた。
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桜(プロフ) - ましゅまろん。さん» 誤字を教えてくださり、ありがとうございます！これからも頑張って更新しますので、最後までどうかお付き合い下さい。 (2020年4月30日 13時) (
レス) id: 842a00e709 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろん。(プロフ) - 突然すみません、43話なのですが、「いんげん」ではなく「いわげん」ではないでしょうか？お話、とても引き込まれる内容で楽しく読ませていただいています。更新、頑張ってください (2020年4月30日 11時) (レス) id: 22f8763a4a (このIDを非表示/違反報告)
みあ(プロフ) - 読み始めてからすぐにお話の世界に入っているような感じになる、素敵なお話でした (2020年1月28日 0時) (レス) id: 985d7c4caa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜 | 作成日時：2019年12月22日 12時
