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Aが屯所を出て数週間。
あの銭湯以来、何となく顔を合わせられないまま、彼女は逃げるように出て行ってしまった。
(俺がもう少し言えたなら)
そう後悔しても、その言霊は消えない。
Aはきっと出て行った後も真面目に努力し励んでいることだろう。
既に松平に評価されていることもあるが、次の異動で必ず戻ってくるとはいいがたい。
少し不安になる、そんなタイミングで、
「トシ、とっつぁんとこ行くぞ。会合だってよ」
近藤と二人、本庁に出向くお達し。
彼女と会えると確定したわけでもないのに、鼓動が早くなる。
それを誤魔化すように、わざとらしく音を立てながら荷物をまとめる。
目的地に近づくに連れ、余計なことばかり考えてしまう。
「トシ。速度」
「…あ。気を付ける」
人を指導する身にもありながら、らしくないことばかりで。
それを察してか、近藤は途中で土方を止め、無理矢理に運転を代わった。
そして、優しく笑う。
「最近、煮詰まりすぎだ。移動の時だけでも寝とけ」
「問題ねえ。少し考えていただけで…」
「…まあ理由は何であれ、運転に支障があるくらいだ。
それに最近、頬がこけているような気がする」
サイドミラー越しの自分を見る。
確かに少し瘦せているようだ。
身など気にせずに、自分の気持ちから目を背けようと仕事に熱中したせいなのだろうか。
近藤は胸ポケットから、小さな菓子を手渡す。
それは、いつかAが帰郷した際にお土産と持ってきたものだった。
「それ美味かったから、最近偶然街で見つけた時に買っちまってなあ」
彼は豪快に笑う。
それに促されるようにして口に運ぶ。
相変わらず無難で素朴な味に、笑みが零れる。
「なあ、美味いだろう。
それ食べたら、少し仮眠を取れ。
これは局長命令だ」
この上司には頭が上がらない。
鬼の副長と呼ばれる自分の内心に気が付く、数少ない人間の一人だ。
それに、よっぽどのことがない限り、ずかずかと入り込んでこない。
回りくどいといってしまえばそうだが、彼のほどよい距離感に土方は感謝していた。
「…すまない。それじゃ、少し休ませてもらう」
「おう。今のうちに休んでいてくれ。とっつあんに何言われるかわかったもんじゃないしなあ」
近藤の楽しそうな声を聞きながら、瞼を閉じる。
(もし、会えたら、すぐに謝らなきゃな)
脳裏に悲しみを堪え、眉を吊り上げたAの顔が焼き付いていた。
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Nattu(プロフ) - amefurasi750さん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです;;銀魂のキャラはどの子も魅力的なので自分もそれをあまり崩したくない意識で書いていました^^どストライクとのお言葉嬉しすぎます;;本当にありがとうございました! (2022年12月13日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
amefurasi750(プロフ) - ありがとうございました!すごく心に残る話で、土方さんや沖田君たちの性格がそのままで安心して読むことができました!尚且つ土方さんと主人公ちゃんとのイチャイチャ具合がドストライクでした! (2022年12月8日 8時) (レス) @page32 id: 0bed4b2b02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年9月1日 23時