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また同じ帰路を二人で並ぶ。
この道を一緒に歩いたのは、あの告白の日以来だ。
「最近、物騒だな」
「ええ。ここんとこ、立て続けでしたもんね」
互いに確信には触れない。
その距離感がもどかしく、どこか心地よい。
隣り合う距離もそれに比例して少し遠い。
「…明日だな」
土方はまっすぐに前を見たまま、Aに語りかけるように言う。
それにAは小さく頷いた。
不意に彼の足は止まる。
「栄転だな。やったじゃねえか」
求めていたものとは違う言葉に、Aの足も止まる。
土方はこちらを見て、頭を掻いた。
(それだけ…?)
「あ…ありがとうございます。
憧れの土方さんの背中を追いかけてたら、いつの間にかこうなってました」
自分でも分かるくらいに、ぎこちなく笑っている。
土方の言うことは理解できる。
彼が教育してきた後輩が上へと行くことは、きっと喜ばしいことなのだろう。
だけど、
(土方さんの中で、私はまだ大切な仲間の一人なんですか)
不意に胸が締め付けられるような、息苦しさに襲われる。
上手く頭が回らない。
「あのAがこうなるとはね。
とっつあんも随分気に入ってたようだし」
そう言って、土方は煙草に火をつける。
細長い煙が空に伸びていく。
「別に気に入られようと思ってやってる訳じゃ」
「わあってるよ。
それは俺がよく知ってるさ」
(こんな話なんてどうでもいいよ)
「引継ぎなら任せろ。
千影やザキ達に伝えてあっから」
「そう、ですか」
「明日、朝イチに上の奴が荷物取りにきてくれるってさ。
準備は済ん」
「…ほかに言うこと、ないんですか」
腹から出した声は震える。
視界はもう揺れていた。
「私、暫くこっちにいないんですよ」
拳をぎゅっと握って、必死に言葉を紡ぐ。
「やっぱり、私は土方さんにとって、ただの後輩で、
あの時のあれは、私だけだったってことですか」
話す度に涙が落ちていく。
元々感情を表に出さない男だ。
あの時以来、想いを言葉で表すことも、手を繋ぐこともなく、仕事上の付き合いだけだ。
Aが頼んだこととはいえ、やはりどこかそれは少し不安で。
今日こそは、きっと言ってくれるのだろうと思っていたのだ。
「気を遣わせていたなら、すみませんでした」
「A、待」
「おやすみなさい」
土方の返事を待たずに、一人屯所へと走っていた。
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Nattu(プロフ) - amefurasi750さん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです;;銀魂のキャラはどの子も魅力的なので自分もそれをあまり崩したくない意識で書いていました^^どストライクとのお言葉嬉しすぎます;;本当にありがとうございました! (2022年12月13日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
amefurasi750(プロフ) - ありがとうございました!すごく心に残る話で、土方さんや沖田君たちの性格がそのままで安心して読むことができました!尚且つ土方さんと主人公ちゃんとのイチャイチャ具合がドストライクでした! (2022年12月8日 8時) (レス) @page32 id: 0bed4b2b02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年9月1日 23時