弐 ページ2
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扉を開けると、案の定その女は一心不乱に竹刀を振っていた。
「相変わらず真面目なこって」
Aは沖田に一瞥もくれず、集中しているようだった。
顔は赤く火照り、汗が流れていく。
それが汗だけなのかどうか、無粋な質問をするのはやめた。
壁に身体を預け、ぼうっと女を見つめる。
真っすぐに前を見つめ、只管に竹刀を振っている。
(それにしても、上手くなってらあ)
沖田はAが入ってきたばかりの頃を思い返していた。
経験者の千影とは違い、他の隊士達に打ち負かされていた彼女が、今では自分の直属の部下だ。
口に出して褒めたりはしないものの、彼女の努力は沖田自身も評価していた。
それがきっと今回の異動に響いたのだろう。
『A見てると、うちの娘見てるみてえで、なあんか放っておけねえんだよなあ』
いつの日か松平はそう独り言ていた。
この組織のトップである彼にとって、Aは所謂お気に入りという部類だ。
それに、組織を管理する部署に女はいない。
それもそのはずで、まだAと千影しかこの組織に女はいないのだ。
新たに女隊士を迎えるにしても、やはりこの二人が基準になる。
そして、彼女達の目線も必要となるのも必然だ。
「…あっ、沖田さん。お疲れ様です」
ある程度、稽古は終わったらしい。
火照った顔で頭を下げ、隣に座った。
生き生きとしているはずの顔は、やはりどこか暗い。
「お前、異」
「すみません、気が付きませんでした。いつからいらっしゃってましたか」
話を遮って、にこにことしながらこちらを見る。
(あー…そういう感じ)
ただでさえ、気を遣うことが億劫にもかかわらず、この女は話をねじ伏せようとしてくる。
それになんだか腹が立ってきて、
「Aも土方さんも、本当に面倒な奴」
言葉を吐き捨て、立ち上がる。
『総悟。今日、稽古場の掃除担当なんだが、用事があって外せねえんだ。
今度、借りは返す。
悪いが代わってくれねえか』
用具入れから乱暴に道具を取り出して、茫然とするAに押し付ける。
渡されるまま、彼女はをそれを受け取り立ち尽くしたまま。
「遠距離恋愛ってそんな甘いもんじゃないらしいですぜ」
舌をべっと出して、Aに向けて顎を突き出した。
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Nattu(プロフ) - amefurasi750さん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです;;銀魂のキャラはどの子も魅力的なので自分もそれをあまり崩したくない意識で書いていました^^どストライクとのお言葉嬉しすぎます;;本当にありがとうございました! (2022年12月13日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
amefurasi750(プロフ) - ありがとうございました!すごく心に残る話で、土方さんや沖田君たちの性格がそのままで安心して読むことができました!尚且つ土方さんと主人公ちゃんとのイチャイチャ具合がドストライクでした! (2022年12月8日 8時) (レス) @page32 id: 0bed4b2b02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年9月1日 23時