弐十壱 ページ21
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目を覚ますと見慣れない部屋とふんわりと香る女性らしい匂い。
シンプルであるがところどころ女らしさを感じる部屋に、
(Aの部屋に…ああ、そうか)
昨晩からの状況に、頭がくらくらとしてしまいそうだ。
隣に寝ているはずの部屋の主はもうおらず、リビングのほうから微かに音が聞こえる。
彼女の分身ともいえる携帯はベッドの上に置かれたままで、信頼されている証のような気がして少し嬉しくなる。
ただその画面は頻繁にちかちかと光っている。
そこにはおそらく上司であろう名前があって。
『お疲れ。なんで昨日は来なか』
『おーい。休みだからって寝す』
『俺は出勤して頑張ってるって』
文句がだらだらと書かれた文に思わず、それをひっくり返して寝室を出た。
「あっ、おはようございます!」
女は能天気に笑いながら、こちらに声を掛けてきた。
フライパン片手にいい匂いを漂わせていて、
(これが幸せという奴か)
と詩人のような感想が心の内に漏れる。
これを口に出そうか迷ったが、彼女が調子に乗ってからかってくるのが目に見えた。
それを態度に出さまいと、
「おはよう。すまん、先に起きて朝飯作らせるなんて」
「いいんです。私が作りたいなと思ってやったことなので」
無造作に跳ねたAの髪をくるくると弄る。
彼女はそんな土方の行為を気にもせずに料理を続けていた。
どうやら一人暮らしは板についたようで、台所には一通りの調理器具は揃っていた。
寮暮らしである程度のことしかしてこなかった土方に比べ、今のAのほうが生活力があるだろう。
それがある種、女子力と呼べるものであろうか。
何気なく料理をする彼女の姿を見て、単純に良いと感じたのはあまり短絡的だと自負してしまう。
「A、料理できたんだな」
「まあ…一通りできないと生活できませんからね。
それに」
Aは土方を一瞥する。
そして、また視線を手元に戻す。
「土方さんに、少しでも良い女だなって思われたいじゃないですか」
胸が締め付けられたような気がした。
健気で愛おしい女だと、にやけてしまいそうになる。
普段、聞くことが少ない彼女の素直な言動に振り回されてしまいたくなる。
手元の包丁を奪い、火を止める。
不思議そうに土方を見る彼女の手を取って、
「もうお前は十分良い女だ」
身体を引き寄せた。
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Nattu(プロフ) - amefurasi750さん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです;;銀魂のキャラはどの子も魅力的なので自分もそれをあまり崩したくない意識で書いていました^^どストライクとのお言葉嬉しすぎます;;本当にありがとうございました! (2022年12月13日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
amefurasi750(プロフ) - ありがとうございました!すごく心に残る話で、土方さんや沖田君たちの性格がそのままで安心して読むことができました!尚且つ土方さんと主人公ちゃんとのイチャイチャ具合がドストライクでした! (2022年12月8日 8時) (レス) @page32 id: 0bed4b2b02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年9月1日 23時