011/お夕飯 ページ11
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「優しいお父さんだったんですね」
その言葉に、Aは頷く。
「父いわく、わたしは父と血が繋がっていたわけではないそうです。母がまだ赤ん坊だったわたしを連れて、父の元にやって来たと言っていました」
静かにハサミが離れて、松陽の手が優しい仕草でAの顔から髪の毛を払った。
「……父は本当に優しい人でした。父がいなかったら、きっと今のわたしはいない」
長いまつ毛に囲まれた瞼を押し上げる。
松陽と目が合った。
深い赤と紫がかち合う。
松陽はしばらく黙ってAを見つめ、やがて視線を逸らした。
「うん。さっぱりしましたね」
満足そうに言う松陽に、Aは頭を下げた。
「ありがとうございます」
それまで口を閉じてAを見守っていた銀時が、ようやく動いた。
そそそ、とAのそばに寄り、どこか不安そうに目を泳がす。
「大丈夫だよ、銀時。そうだ、銀時も髪の毛切ってもらったら? 邪魔じゃあない?」
ふわふわの銀髪に触れて言えば、銀時はぎょっとしたように顔を強ばらせた。
「いい。おれはいい」
やはりまだ松陽への警戒を解いていないのか。
それともハサミが怖いのか。
銀時は厳しい顔のまま首を横に振った。
「切りたくなったらいつでも言ってください。……さて、ではお夕飯にでもしましょうか」
ハサミとちり箱を片づけ、松陽は立ち上がる。
お夕飯。
懐かしい響きだった。
「なにか食べたいものはありますか?」
Aは銀時と顔を見合わせる。
突然なにか食べたいものはあるか、と聞かれてもすぐには思い浮かばない。
「……食えればなんでもいい」
特に銀時はちゃんとした食事をしたことがない。
今まで食べてきたのも料理とは言えないものばかりだっただろう。
代わりにAがうーん、と唸った。
「お味噌汁、と炊きたてのご飯が食べたいです」
そして浮かんだのはその二つだった。
味噌の良い香りのする味噌汁。それとほかほかの白米。漬物があるならなお良い。
ぽわぁっと想像しただけで、Aの腹は元気よく鳴る。口の中に唾がわいた。
「お任せください」
にこりと松陽は笑い、「少し待っていてくださいね」とだけ言い残して部屋を出て行った。
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弥生 - そして先生と夢主って…!と思います^_^; (2021年11月2日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 銀さんとのやりとりかわいい…! (2021年10月28日 12時) (レス) @page12 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 自分のペースで良いですよ!(*^^*)夢主の成長が楽しみです!(*^◯^*) (2021年10月17日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
ふじ(プロフ) - 弥生さん» 弥生さん、コメントありがとうございます!最近更新ができていなくてすみません🙇♂️これからぼちぼち更新していこうと思っています!どうぞよろしくお願いします🥳 (2021年10月10日 12時) (レス) @page10 id: 9f078bb16b (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 夢主と銀さんの絡み方が可愛いですっ╰(*´︶`*)╯夢主の父親はどんな人かとか気になりますっ!続き楽しみです!(*^^*) (2021年10月6日 9時) (レス) @page10 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふじ | 作成日時:2021年9月20日 0時