検索窓
今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:9,929 hit

011/お夕飯 ページ11

.


「優しいお父さんだったんですね」


その言葉に、Aは頷く。


「父いわく、わたしは父と血が繋がっていたわけではないそうです。母がまだ赤ん坊だったわたしを連れて、父の元にやって来たと言っていました」


静かにハサミが離れて、松陽の手が優しい仕草でAの顔から髪の毛を払った。


「……父は本当に優しい人でした。父がいなかったら、きっと今のわたしはいない」


長いまつ毛に囲まれた瞼を押し上げる。

松陽と目が合った。
深い赤と紫がかち合う。

松陽はしばらく黙ってAを見つめ、やがて視線を逸らした。


「うん。さっぱりしましたね」


満足そうに言う松陽に、Aは頭を下げた。


「ありがとうございます」


それまで口を閉じてAを見守っていた銀時が、ようやく動いた。

そそそ、とAのそばに寄り、どこか不安そうに目を泳がす。


「大丈夫だよ、銀時。そうだ、銀時も髪の毛切ってもらったら? 邪魔じゃあない?」


ふわふわの銀髪に触れて言えば、銀時はぎょっとしたように顔を強ばらせた。


「いい。おれはいい」


やはりまだ松陽への警戒を解いていないのか。
それともハサミが怖いのか。

銀時は厳しい顔のまま首を横に振った。


「切りたくなったらいつでも言ってください。……さて、ではお夕飯にでもしましょうか」


ハサミとちり箱を片づけ、松陽は立ち上がる。

お夕飯。
懐かしい響きだった。


「なにか食べたいものはありますか?」


Aは銀時と顔を見合わせる。

突然なにか食べたいものはあるか、と聞かれてもすぐには思い浮かばない。


「……食えればなんでもいい」


特に銀時はちゃんとした食事をしたことがない。
今まで食べてきたのも料理とは言えないものばかりだっただろう。

代わりにAがうーん、と唸った。


「お味噌汁、と炊きたてのご飯が食べたいです」


そして浮かんだのはその二つだった。

味噌の良い香りのする味噌汁。それとほかほかの白米。漬物があるならなお良い。

ぽわぁっと想像しただけで、Aの腹は元気よく鳴る。口の中に唾がわいた。


「お任せください」


にこりと松陽は笑い、「少し待っていてくださいね」とだけ言い残して部屋を出て行った。

012/信用できるか否か→←010/こぼれる思い出



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (39 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
96人がお気に入り
設定タグ:銀魂 , 愛され , 原作沿い
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

弥生 - そして先生と夢主って…!と思います^_^; (2021年11月2日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 銀さんとのやりとりかわいい…! (2021年10月28日 12時) (レス) @page12 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 自分のペースで良いですよ!(*^^*)夢主の成長が楽しみです!(*^◯^*) (2021年10月17日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
ふじ(プロフ) - 弥生さん» 弥生さん、コメントありがとうございます!最近更新ができていなくてすみません🙇‍♂️これからぼちぼち更新していこうと思っています!どうぞよろしくお願いします🥳 (2021年10月10日 12時) (レス) @page10 id: 9f078bb16b (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 夢主と銀さんの絡み方が可愛いですっ╰(*´︶`*)╯夢主の父親はどんな人かとか気になりますっ!続き楽しみです!(*^^*) (2021年10月6日 9時) (レス) @page10 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ふじ | 作成日時:2021年9月20日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。