002/桜と鬼 ページ2
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真っ赤な夕焼けが座る二人を染め上げる。
「わたしは……新島A。キミは?」
散弾銃を抱えながら、新島Aと名乗った少女は同じ死体に腰掛ける白髪の彼に声をかけた。
「……わかんない。名前なんて、ないから」
「そうなの? じゃあ、なんて呼べばいい?」
「鬼とか、化け物とか、呼ばれてきた」
予想の斜め上の回答にAは言葉に詰まる。
この名前のない彼はAの命の恩人だ。
空腹で倒れそうだったAに、それほど数がないであろう握り飯をくれたのだから。
そんな恩人を“鬼”や“化け物”と呼ぶわけにはいかない。
「う、うーん……じゃあなんて呼ぼうかな……」
「べつに呼び名なんてなんでもいい。……だいたい、なんでおまえはここにいるんだ」
心底不思議そうに彼の目がAに向く。
握り飯を一瞬で食べ終わったAはそこを去ることなく、なぜか彼の隣に腰掛けたのだ。
こんなにも人と近い距離で話したことも、座ったこともない彼は明らかに狼狽えていた。
「……キミはわたしを助けてくれたから、なにかお礼ができればなって」
長い前髪越しに目が合う。
深い紫色の瞳だった。
飲み込まれそうなくらい深く、底のない色。夜をバケツごとひっくり返したような、そんな色。
目の縁を、少女は緩めた。
「わたしね、銃が得意なの。でも今は弾がないから使えないけど……もし弾があったら鳥でも人でもなんでも撃ち落とせるよ」
にこり、とAは優しく微笑んだ。
ぞわぞわと彼の肌を味わったことのない感情が這う。
恐怖でも、侮蔑でもない表情を向けられることなど彼にはなかった。
優しさだけの笑顔など、初めてだった。
はくはくとまるで魚のように彼は口を開け閉めする。
なにかを伝えなければならないと思ったが、彼はその“なにか”がよくわからなかった。
だから結局、ぱくりと口を閉じてしまう。
「鳥肉を焼いて食べるとね、とっても美味しいんだよ。おにぎりよりもお腹が膨れるの」
血のように赤い空を背景に飛ぶ、たくさんのカラスたち。Aは彼から視線を逸らし、それに向かって手を伸ばす。
ぐぅー、とどちらかの腹の虫が鳴いた。
「えへへ、お腹すいたね」
「……うん」
やっぱり、たった一個の握り飯で腹は膨れなかった。
003/撃ち落とす→←001/桜の樹の下には死体が埋まっている
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弥生 - そして先生と夢主って…!と思います^_^; (2021年11月2日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 銀さんとのやりとりかわいい…! (2021年10月28日 12時) (レス) @page12 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 自分のペースで良いですよ!(*^^*)夢主の成長が楽しみです!(*^◯^*) (2021年10月17日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
ふじ(プロフ) - 弥生さん» 弥生さん、コメントありがとうございます!最近更新ができていなくてすみません🙇♂️これからぼちぼち更新していこうと思っています!どうぞよろしくお願いします🥳 (2021年10月10日 12時) (レス) @page10 id: 9f078bb16b (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 夢主と銀さんの絡み方が可愛いですっ╰(*´︶`*)╯夢主の父親はどんな人かとか気になりますっ!続き楽しみです!(*^^*) (2021年10月6日 9時) (レス) @page10 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふじ | 作成日時:2021年9月20日 0時