呪いの王を宿した少女 ｰ４ｰ〈呪術廻戦／成り代わり〉

また会えて、嬉しいよ ページ9

言葉を紡ごうとしたAは、突然の衝撃に声を詰まらせた。

「め、恵！？」

視界を埋め尽くす恵の黒髪。
背中に回る腕。
耳元で聞こえる息づかい。

「…………よかった」

小さな声だった。

恵に抱きしめられていると気づいたのは、その声がAの耳に届いたときだ。
なんとか倒れずに踏みとどまれたが、まだ少し状況が飲み込めない。

「……恵？」
「…………生きてる」

――あぁ。

不意に、Aは目頭が熱くなるのを感じた。鼻の奥が熱を持つ。
Aは行き場をなくしていた手を、恵の頭に回した。

「うん。生きてるよ」

恵の髪をくしゃくしゃ、とかきまわしてやれば、彼はさらにAを抱きしめる腕に力を込めた。

「あったかい」
「うん」
「心臓の音が、聞こえる」
「うん」

「生きてて、よかった」

「うん」

ぽんぽんとあやすように恵の背中を軽く叩きながら、Aは彼の肩口に顔を埋めた。

「また会えて、嬉しいよ」

でもちょっと苦しいかな。
なんて、少し困ったように言えば、渋々といった様子で恵はAから体を離した。

「……A！」

ぐんっ、と恵を押しのけ、野薔薇がAの前に立つ。

「のばっ」

野薔薇。
彼女の名前を最後まで言う暇もなく、Aは野薔薇にきつく抱きしめられた。

「……生きてんなら、なんか連絡でも寄越しなさいよ」
「ごめん」

ぎゅうううう、と力いっぱい抱きしめたあと、野薔薇はパッとAから離れた。
目には薄らと涙が張っていて、唇の震えを隠すようにきゅっと結ばれている。

「あんたのせいで映画のチケットも、私の休みも無駄になったんだから、責任取りなさいよ」

結局行くことができなかった映画は、もう終わってしまっているだろうか。
野薔薇はどんな気持ちで、二枚の映画チケットを見ていたのだろうか。

「交流会が終わったら、行こう」
「当たり前でしょ」
「恵もいっしょに行く？」
「行く」
「はぁ？ 女子だけのお出かけなんだけど？」
「虎杖が誘ってくれたんだ。行って悪いか？」
「ちょちょ、落ち着いて二人とも……」

わちゃわちゃと恵と野薔薇に挟まれるAは、それでも嬉しそうに笑っていた。
初めて見る、Aの年相応の笑顔。

七海はジャケットを羽織り、かすかに微笑んだ。

やはり彼女には笑顔が似合う。

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