呪いの王を宿した少女 ｰ５ｰ〈呪術廻戦／成り代わり〉

殺す側 ページ11

伊地知と電話をする恵の後ろ姿を、Aは野薔薇と並んで見つめる。

藤沼たちが去ったあとの恵のあんな顔を初めて見た。
冷や汗を額に浮かべ、かすかに肩を震わせていた。

「…………」

なにを話しているのか、声は聞こえない。
だが切羽詰まった状態なのは変わりない。

(……藤沼さんにも同じような怪奇現象が起こった)

時期はそれぞれ違っても、この件の被害者は全員八十八橋に行っている。
そして、なにかを境に突然、呪いが力を持った。

最初に死んだのは――たしか六月。

(…………六月)

ザザッ、とAの脳裏になにかがよぎる。

六月。そう、六月だ。六月は……あの月は、Aの人生が大きく変わった月だった。

(あたしが……宿儺の指を食ったとき……)

ありえない。ありえないありえない。
そんなこと、ただの偶然。きっとそうだ。

鼓動が早鐘のように体の内側から叩いてくる。

Aはそっと両手で顔を覆った。

両面宿儺は呪いの王。
宿儺の指は様々なところに散らばっている。
気配が大きすぎるモノ。息をひそめているモノ。すでに呪霊に取り込まれたモノ。

そしてなにより、両面宿儺はAに受肉した。

「………………」

点と点が繋がり、線となった。

両手を顔からおろし、Aは深く息を吐いた。

伊地知との電話を終え、こちらに向かってくる恵。少年院で投げかけられた彼の言葉は、ずっとAの心にある。


――自分が助けた人間が、将来人を殺したらどうする。


わからない。
そんなこと、わからない。

(だって……あたしは)


あたしは救う側じゃあないんだから。

覚悟は決めたはずだった→←彼女もいっしょ

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